2011-03-26

白鯨(下) [ハーマン・メルヴィル著]


読了!!!

下巻は、エイハブ、スターバック、ピークオッド号の乗組員たち、他の捕鯨船との出会いを通して人間ドラマが描かれている。そしてクライマックス、白鯨との対決。

この巻でも、私は訳注が一番面白かった。それから訳者による解説も興味深く面白かった。「白鯨」考察の本が数多く出ているようで、面白そうだ。アメリカ社会の縮図としてのピークオッド号、クィークェグとイシュメールの同性愛的関係、白人社会が遭遇する異文化などなど。しかし本編「白鯨」を読んでいなければ、それら考察の本当の面白さはわからないわけで、とにかく全編を読み終えてよかった。

作者メルヴィルが捕鯨船の乗組員だった経験があるだけに捕鯨船と鯨についての描写に臨場感がある。印象に残っているシーンは中巻にあった、捕鯨ボートが鯨の"スクール"の中に迷い込んでしまった箇所。母鯨、子鯨、恋人同士の鯨の描写。捕鯨ボートの存在に違和感を抱くことなく、流れていく鯨の群れの静けさが幻想的だった。

メルヴィルってどういう人なのだろうと思ったら巻末に略年表があった。捕鯨船に乗り組んだのは23才の時。しかし途中で船を脱出、マーケサス諸島のヌクヒーヴァという所でしばらく暮らした。この時の体験をもとに書いた作品が処女作「タイピー」。

「白鯨」は1851年10月にロンドンで、11月にニューヨークで出版された。ロンドン版とニューヨーク版で内容が異なり、これも文学的研究の対象になっているよう。「タイピー」から「白鯨」までの間に5作品発表している。「白鯨」後、10作発表したが、1866年、47才の時ニューヨーク港税関の検査官になり、19年勤める。この間詩作は続けていたが小説は発表していない。

1891年に死去した時、ニューヨーク市のプレス紙は「かつて有名なりし作家の死」という死亡記事を掲載し、その代表作は「タイピー」と伝えた。いつからメルヴィル=「白鯨」となったのか。そして「白鯨」が白人を愛鯨家としたのではないか...。「白鯨」考察のテーマはこのように尽きないわけですね。

とにかく、アメリカ文学作品の巨塔「白鯨」を読み切った。

解説に、この作品の冒頭に語り手イシュメールは"再登場"しているのだ、と書かれている。白鯨との死闘で生き残ったイシュメールがこの物語を語っているわけで、冒頭のイシュメールはすべての物語が終了した後に"再登場"しているのだという論理。「白鯨」を読了したこの日、映画「ある日どこかで」を観たのだが、この映画も冒頭にヒロインが"再登場"している。時間のパラドクスを内包した作品が続いた1日だった。