2010-05-30

肉と脂肪のリサイクル [GOOD FOOD]


Original Title: Recycling Meat and Fat

家畜が食肉加工された後に残る部位を処理する工場の話。

家畜の体の半分程度が食用に使われ、残り半分は廃棄される。廃棄される部位は羽根、脂肪、血液、筋、内蔵などで、その量は年間約590億ポンド(約2,655万トン)にのぼる。この工場では廃棄部位をつぶしてから摂氏200度位で加熱調理して、飼料、肥料、ドッグフードに製品化している。

この処理工場は家畜産業のリサイクルに貢献しているし、環境保護にも寄与していると言っている。生ゴミとして埋め立て地に廃棄するより衛生面で安全だし、加熱調理で排出されるCO2も焼却する場合の四分の一とのこと。

廃棄部位の処理工場は1933年に設立されて以来、これまで存在を公にしていなかったが、狂牛病などの事件が起きてから食の安全への関心が高まったので、業務を広報して理解してもらおうとしているとのこと。この処理工場の業務は食品安全局や周辺住民からの厳しい監視の目に晒されているので、安全面、衛生面には十分配慮していると言っている。

古代チベット文明の謎 [立石 巌著]


メソポタミア、インダス、黄河といった古代文明の真の発祥地はチベットではないかという説を唱えている本。古代文明発祥地がチベットを囲むように位置しており、それぞれの河川がチベットを源流としていることからチベット起源説を思いついたらしい。

「山海経」という本からの引用が多い。これによると頭が牛で体が人間の神や首が人間で体が蛇の神が農業の技術を伝え、社会基盤を整備したとされている。グラハム・ハンコックも著書(「神々の指紋」「創世の守護神」)の中で、異形の神が人間に農業を伝えたという伝説が世界各地にあると書いている。ハンコックの言い分ではその文化の中心はエジプトになる。氷河期が終わって氷が溶けだした大洪水の時期はチベットのような高山にしか動物が生息できる土地はなかったろうと思う。

荒唐無稽ではあるけれどそれなりの根拠を一貫して示してくれたら面白く読めたと思う。しかし著者の論理の焦点が定まっていないし、重複して記述していることも多い。文献を根拠に論理を進めているかと思うと、著者のチベット旅行の体験談があったり。「・・・といわれているから、あるいは・・・と考えられなくもない」といったように推定から推定している。ほとんど読み飛ばして何とか最後のページまで辿り着いた。

2010-05-23

太陽光オーブンの普及 [GOOD FOOD]


Original Title: Solar Cooking

太陽光を利用する調理器具を東アフリカで普及している話。

太陽光オーブンは衛星テレビアンテナのような形をした調理器具。真ん中に専用の黒い鍋を置いて調理する。炒め物は無理だけれど、肉でも野菜でも十分に調理できるとのこと。1987年に創設された団体が主に東アフリカで普及に努めている。困難はあるが、太陽光オーブンを使ってみようとする人も少なからずいて、そうした人たちの影響や団体の啓蒙活動などで徐々に利用する家庭が増えているよう。

晴天の日中でないと使えないという欠点はあるものの、東アフリカのような過酷な環境では大いに利用価値があるとのこと。まず薪を使わないから森林破壊を防ぐことができるし、CO2も出ない。薪を取りに遠くまで出かけなくてよい。遠くまで出かけなくてよいというのは労力を節約できるだけでなく、犯罪に巻き込まれないという利点がある。地震があったハイチにも何百台か支援して大勢の人たちを助けたと報告している。

太陽光オーブンは無償配布らしいので、燃料代節約で途上国の家計の一助となっている。一石六鳥くらいの素晴らしい活動だ。

2010-05-18

先進国でも劣悪な炭坑労働環境 [NPR]

Original Title: Mine Probe Examines Airflow, Possible Tampering

今年4月、バージニア州の炭坑で爆発事故があり、29人の坑夫が死亡した。この40年で最悪の炭坑事故とのこと。

事故原因は調査中だが、坑内換気の不備は以前から取り沙汰されていた。炭坑内は石炭の粉塵とメタンガスが充満しやすい環境にあり、十分な換気で粉塵とガスを排気しなければ爆発が起きやすくなる。石炭の粉塵は火薬と同じなのだから。

換気システムについては坑夫たちが会社に苦情を言っていたし、国の炭坑安全衛生局も改善を指導していた。が、会社は改善計画を修正し続け、結局坑内をより危険な状態に変えてしまった。

産業革命の時代ならともかく、21世紀に今回のような大爆発が起きるのは異常だ。この大爆発事故についてはFBIが捜査を始めたとのこと。

天然資源のあるアフリカの途上国では採掘現場は劣悪な環境にあるが、それは国の行政府が機能していないということもあると思う。しかしアメリカのような先進国で、行政が監視しているにもかかわらず採掘現場が劣悪な状態にあるというのは、結局企業にその原因があるのではないか。企業活動は公共の福祉に根ざすべきという流れがきていると思いたい。

タイ家庭料理入門−ヘルシー&エスニック はじめての一品から本格ディナーまで− [うめ子ヌアラナント、安武律著]


手近な材料で作れるタイ料理のレシピがいくつも載っている。日本で代替できる調味料についても記載されているので、タイ料理をふだんのおかずとして作れそうだ。

戦後すぐタイに嫁いだ女性と、食についての研究者がこの本の著者。対談で、食糧難の日本から嫁いだらタイの市場は野菜が豊富で10年くらい帰りたくなかったと言っている。たしかに今でもタイの市場は野菜の種類が豊富。どんな料理に使うのだろうと思っていた野菜を使ったレシピが載っていて、この本でタイ料理についていろいろ知ることができた。

1990年代半ばまで魔都というイメージがあったけれど、ヌアラナントさんの話を読むとタイは昔からずっと人情のあるゆたかなところだったようだ。ヌアラナントさんがタイのエリート一族に嫁いだからかもしれないが。安武先生は、ベトナム戦争を境にジャングルを切り開いたためタイの本当のゆたかさは失われたと言っている。

タイは人情と異国情緒にあふれた、気持ちが明るくなるところだと思っているのだが、去年から続く反政府暴動の報道に接すると信じられない思いだ。観光やショッピングで歩いた中心地は戦車で封鎖され、タイヤが焼かれている。すでに外国人記者を含む50人近くが死亡している。

2010-05-09

死神を葬れ [ジョシュ・バゼル著]


変わったミステリ(?)らしいので読んでみることに。

更正プログラムだか証人保護プログラムによって、過去を消して医者として人生をやり直している元マフィアの殺し屋。勤務する病院にマフィアメンバーが入院し、組織からの報奨金目当ての殺し屋たちに追われる羽目になる。

現在の医者としての行動と、更正プログラムに至るまでの殺し屋としての過去が交互に描かれている。一人称小説で、口調が軽いのでほいほい読んでしまうが、殺し屋ドラマと、医者ドラマの両方にかなりグロテスクな描写がある。しかもかなりリアリスティックだ。読んでいて顔をしかめるくらい痛そうな箇所があった。

映画化権が売られたらしいけれど、面白い映画になるかなぁ。

エデンの東 [エリア・カザン監督]


人間のドラマだ。スタインベック原作。聖書がベースにある、親子、兄弟の葛藤のドラマ。

ジェームス・ディーンは24才で亡くなったのですね。なぜ彼の死が永遠に悼まれるのか。ハンサムなだけでなく、ずば抜けた演技力を備えている俳優だったからだと思う。30代、40代にどんな人物を演じたか、どんな老人を演じただろうか。

「エデンの東」では、子どもっぽさがあり、善良な部分と悪意の部分がせめぎ合う心の葛藤、嫌みのないモテぶり、純情。キャルという人物のすべての要素をあますことなく描いている。この映画が名作なのは、ジェームス・ディーンだけでなく、父親、双子の兄、兄の恋人、母親、保安官、ドイツ系市民。登場人物全員がその人生を生きていることが描かれているからだと思う。

上目づかいがカッコいい、という概念はジェームス・ディーンから生まれたのではないだろうか。兄の恋人役のジュリー・ハリスはキャリー・フィッシャー(レイア姫)にすごく似ている。

2010-05-08

処刑された祖父の真相 [NPR]


Original Title: My Grandfather's Execution

1945年、ミシシッピ州で、黒人男性が白人女性を強姦した罪で逮捕された事件があった。その黒人男性の孫娘が真実を求めて、当時の関係者を訪ねたリポート。孫娘といってもすでに60代。一家にとってこの事件は永遠に持ち出してはいけないことだった。

伝えられている事件は次の通り。早朝白人の家に入り込んだ犯人は、1階で生後間もない赤ん坊と寝ていた白人女性を脅しレイプした。女性の夫は2階で寝ていた。

1945年当時、黒人が白人の家に入るなど絶対考えられないことだったし、黒人男性と白人女性が面識を持つことは"ありえない"はずだった。だから多くの人たちが冤罪ではないかとして犯人の無罪を訴える運動を行った。

しかし、この黒人男性は1951年に電気椅子で処刑された。使用されたのは旅する電気椅子と呼ばれるもので、当時死刑囚のいる地区の裁判所に持ち込まれて執行に使われていた。この電気椅子は今もミシシッピの矯正院に展示されている。

やったのか、やらなかったのか。本当のところ有罪なのか無罪なのか。孫娘はリポートの終盤検察官の息子を訪ねる。すでに故人の検察官は、執行直前に祖父と言葉をかわした。事件の真相を物語るその言葉は、60年後息子から死刑囚の孫娘に伝えられた。

事実は小説より奇なり。このすべてが小説だとしたら、死刑囚の最後の言葉は人間のドラマのエンディングにふさわしい。

NPRのウェブサイトにこの黒人男性の写真が掲載されている。かなり男前だ。

2010-05-03

洋酒天国3 ウィスキーここにありの巻 [開高健監修]


「やってみなはれ みとくんなはれ」を読んで、サントリーの販促雑誌「洋酒天国」を読んでみたくなった。開高健がテーマ別にセレクトした単行本で往時を偲ぶことに。

そうだったのかぁ、と発見したのは、オン・ザ・ロックは1960年代以降の新しい飲み物だということ。バーテンがオン・ザ・ロックをどうやって作るのか知らなかった、というエピソードがある。それと、バーボンのことをブルボンとかバーバンとか呼んでいる。

「洋酒天国」は昭和31年発刊。高度成長期前だ。この本に掲載されているエッセイの執筆者は東大、東工大、慶大の学者や、著名な随筆家ばかり。海外生活の経験があり、"洋酒"に対する造詣が深い。文末に著者の簡単な紹介が載っているのだが、明治生まれの人が何人かいる。監修の開高健も含めてみなさん今や故人だ。

海外経験がありそれを語れることがどれだけ洒落ていたことか。海外経験があるということはエリートの証でもあった。こんな風にカッコよく蘊蓄を語れたら、と誰もが憧れたことと思う。当時の風俗を知る貴重な資料でもあると思う。

サントリーのウィスキーを飲みたくなってきた。ビターをたらしたソーダ割りを試してみたい。