2010-02-28

辛くてオイシイ韓国-食の謎を解き明かす- [日本放送出版協会編]


複数のライターが現地を取材して、韓国料理の色々な側面を紹介している。キムチの章は、作り方から漬ける甕、キムチ専用冷蔵庫、白菜、唐辛子など、キムチにまつわるあらゆる話題を網羅している。

宮廷料理、魚介類の食品、野菜、薬膳。よく取材して掘り下げて記事を書いている。読んで色々な知識を得ることができるし、面白い。

この本を読んでなるほど、と思ったのは、葉野菜は干して使うということ。肉と葉野菜を一緒に食べてよく噛んで口のなかで混ぜ合わせるということ。キムチは甕に漬けるということ。よく噛んで食べるのは脳にも顎にも胃腸にもよいことは知っているけれどなかなか実行できなかった。よく噛んで口の中で食べ物の味をよく引き出す、という意識があれば実行できそうな気がする。

2010-02-27

血に問えば [イアン・ランキン著]


エジンバラの警察小説、リーバス警部シリーズ。

名門私立学校で元軍人が銃を乱射、男子学生2人が死亡し1人が重傷を負う。リーバスは要請されて捜査に協力するが、これとは別にリーバス自身はチンピラの焼死事件の容疑者として追求を受ける身となる。今回の事件は他に銃、麻薬の密売、エジンバラの若者グループの対立なども絡んでくる。

リーバスとシボーンの関係が、先輩と後輩、同僚の枠を超えそうな超えなさそうな....という感じ。たぶん捜査という媒介があるから密接な結びつきがあるので、リーバスが退職したらこの親密さは消えてしまうのではないだろうか。パブで会っても話しが続かないのではないかな。

作者は、謎解き、異色な世界の覗き見、職場の政治、登場人物の成長など色んな要素を一つの事件に盛り込んでいる。描かれているのはリーバスやシボーンの生活でもあるわけで、彼らが仕事に熱中するのはわかる気がする。危険に晒されたり、孤独だったり、人生にネガティブな要素はあるけれど、結局仕事が充実感を与えているのではないか。その充実感は読者も感じていて、実際に命を危険に晒したり、中傷に耐えたりしなくてよい分、もっと気楽に熱中できるわけだけれど。

アパートの鍵貸します [ビリー・ワイルダー監督]


シャーリー・マクレーンがかわいい。コメディだと思っていたけれど、切ない恋をコメディで味付けしたドラマだったんだ、と思いました。

昔、教育テレビで観たけれど、睡眠薬を飲んだシャーリー・マクレーンを一晩中起こしておくために、部屋の中を行ったり来たり歩き回るシーンしか覚えていなかった。その後の経過を初めて知った、ような気がする。

1960年公開。あれから社会はだいぶ変わったなぁと思う。シャーリー・マクレーンが演じるヒロインは知的な女性とはいえない設定だが、今ならニューヨークが舞台のロマンチック・コメディのヒロインは高学歴で相手役より切れ者、という設定になっているのではないかと思う。前回の「フォロー・ミー」でもミア・ファローが演じるヒロインは知的というよりこどもっぽい印象を与えていた。

切ないドラマだ、と思いながら観ていたが、ジャック・レモンが台詞を言う度に笑い声を立てる客がいて、あまり熱中して観ることができなかった。

2010-02-20

暗く聖なる夜 [マイクル・コナリー著]


前作「シティ・オブ・ボーンズ」で、ファンをのけぞらせる展開で終わったボッシュ・シリーズ。

今回ボッシュは、4年前から未解決のままの映画製作会社社員の殺人事件と映画撮影現場で起こった現金強奪事件の真相を追う。そこに、FBIの対テロ捜査チーム(正式にはもっと大がかりな捜査部署なのだけれど)、かつての同僚などが絡んでくる。かなりヤバイ状況に放り込まれるのだけれど、真相への欲求がボッシュを捜査に駆り立てる。シリーズで一番好きな登場人物、ロイ・リンデルFBI捜査官がかなり早い時点で登場したので嬉しかった。

これまでのシリーズと全然趣が違って始まる。「ほぼ日」で大沢在昌氏が「『書き手』としてのオレになるとそういう『パターン』は絶対イヤで」と言っているように、コナリーもパターン脱却を図ったのか。読み進めるうちにいつものコナリーの個性が見えてきて違和感はなくなってしまったが。

ボッシュは真相に辿り着くのだけれど、最後にまたもやファンをのけぞらせる展開が!しかし、巻末の訳者解説によると次回作ではシリーズの主要登場人物に大きな危機が訪れるらしい。しかも次回作の事件は最新作までつながるとのこと。

最後の展開にはホント頭にキてる。ローレンス・ブロックもマット・スカダーを安定方向へ持って行った。作家がパターンを外していきたい気持ちはわかるけれど、ハードボイルド小説の根本を外したらハードボイルド小説を読む意味はない。なぜ一般人がハードボイルド小説を読むのか、考えてくれよ!

フォローミー [キャロル・リード監督]

TOHOシネマズで1年かけて上映している「午前十時の映画祭」の中から観に行った作品についても記していきます。

「フォローミー」は、周防監督の「Shall we ダンス?」で、柄本明の探偵がこの映画を観て探偵になった設定とのことで、観てみることに。

長いこと独身だったイギリス人会計士が、アメリカ娘と知り合い、二人は恋に落ちる。インテリでハイソな男性とヒッピー系の自由人の女の子。正反対の二人だから惹かれ合ったのだけれど、結婚した途端恋の魔法が溶けてしまう。孤独になった女の子は気晴らしに毎日町中を出歩く。夫は出歩いてばかりの妻が浮気しているのではないか、と探偵を雇う。ところが、この探偵がまた一風変わった男で、孤独な尾行対象者に同情してしまい、正体を明かさないまま、女の子と一言も言葉を交わさずに、前を行く者と付いて歩く者として、町歩きを楽しむ日々を送る。が、それを夫が知り.....。

面白かった!キュート!この映画のミア・ファローがかわいい!森ガールの原型ですね。花柄のワンピースに黒のニットタイツ。茶のコーデュロイのパンツにスプリングコート。エスニックな織り地のショルダーバッグなどなど。探偵のファッションもイカしている。白いハンチング、白いコート、白いショルダーバッグ。一見牛乳屋さん風。

元々は舞台作品のようで、会計士の夫、アメリカ人の妻、探偵の三人のキャラクターが際立っている。会計士の夫の母は、はじめはオツにすましたイギリス婦人にみせて、後半チラッとお転婆だった印象を与えるのがいい。

「Shall we ダンス?」で探偵事務所に飾ってあった「フォローミー」のポスターは、植物園のシーンを切り取ったもののよう。そのポスターを探したけれど見つからなかった。

2010-02-09

別れても、つながっている人たち [NPR]


Original Title: Digital Tears: Breakups And Social Networks

ソーシャルネットワーク盛りで、オンライン上で色んな人たちとつながる機会が多くなっている。友だちの友だちはみな友だちだ、状態。

ところで、恋人と別れても恋人が友だちの友だちだったりすると、ネットワーク上では元恋人とまだつながっている状態が続くわけで、「私の人生から出て行って!」しまうわけにはいかないよう。友だちのコメントに元恋人がつけているコメントを消すわけにもいかず、、元恋人のコメントに友だちがコメントをつけるのを止めさせるわけにもいかないし.....。ズルズル引きずった状態がズルズル続くわけで.....。

なかなか興味深い、新時代の問題です。

シティ・オブ・ボーンズ [マイクル・コナリー著]


ロサンゼルスの刑事、ハリー・ボッシュシリーズ。住宅地の裏山から少年の遺骨が発見される。骨から、幼児期から虐待を受け続けたこの少年が20年前に殺されたことがわかる。大昔(?)の殺人事件の犯人を、ボッシュが数少ない手がかりから突き止めていく。

被害者の身元は案外早く判明するが、真犯人に辿り着くまで容疑者が二転三転するし、ボッシュの私生活も二転三転する。ボッシュが異彩を放つのは、犯人をあげることではなく、真相を明らかにすることを信条としているから。そして、ラストのラスト、シリーズファンをのけぞらせる展開が!

リーバス警部シリーズを読み続けてたので、二人の共通点に目がいってしまった。まず、二人とも軍隊経験がある。管理職ではないけれどその手前の階級。最近直属の上司が女性になった。女性の後輩同僚がいる。ボッシュはキズミン、リーバスはシボーン。二人とも音楽好き。ボッシュはジャズ、リーバスはロック。事件捜査中に知り合った女性との交際がたびたびある。

異なる点は、ボッシュが孤児同然なのに対し、リーバスは貧しいながらも両親と弟がいる家族の中で育ったこと。ボッシュは飲酒、喫煙を節制し、この年齢にしては体型を保っているのに対し、リーバスは飲酒、喫煙に溺れ、タイヤを二本重ねたような下腹部になっている。

しかし捜査に関しては、二人とも気になる事柄はなおざりにせず、現場へ行って事実を確認することを厭わない。それが名刑事たる所以なのでしょう。渡辺謙が演じた実在の刑事、平塚八兵衛氏も現場へ行って事実を確認して、難事件の真相に辿り着いている。

ボッシュ・シリーズは90年代に読んでいたのだけれど、しばらく遠ざかっていた。先日ボッシュ・シリーズが続いていることを知り、再び読むことに。今回のボッシュはこれまで読んだボッシュよりだいぶソフトになっていたけれど、ラストの「!?」な展開に、また目が離せなくなってしまった。

2010-02-04

聖女の救済 [東野圭吾著]


トリックにびっくり!着想が非凡だ。吉本隆明が「悪人正機」で、天才領域にいる人は着想が違う、と言っているが、まさに天才領域の着想。


トリックに圧倒されて、人間ドラマの印象が薄まってしまったような気がする。恋というか異性に惹かれるという視点で眺めると、草薙刑事は魅力的に映ったが、被害者と犯人には同情できないなぁ。特に被害者は因果応報じゃないかと思う。プチ成金の傲慢。

作者は内海刑事の女の勘というのを重視して描いているのだけれど、女の勘についてわかってるねぇと感心した。

これは2008年の作品。内海刑事がiPodで福山雅治を聞いているシーンがある。テレビドラマ化されたのは2008年だったかな。洒落なのかな。

2010-02-02

年をとるとなぜ時間が経つのが早いのか [NPR]


Original Title: Why Does Time Fly By As You Get Older?

このごろ時間が経つのが早くなっているような気がする、と誰もが言っている。それはなぜなのか、ということを追究した記事。

まず、年齢を重ねると脳の中で時間を感知する細胞が老化または損傷するのではないか、と考えられている。年齢を重ねるとある周波数の音を感知できなくなるのと同じか!

街角で、あらゆる年齢層の男女に時計を見ないで1分を計ってもらった。20代から30代は55秒から65秒位を1分と感じているのに対し、80代から90代の人は90秒を1分と感じている。

相対的なものもあるのではないか、とのこと。6才の子どもにとって1年は人生の6分の1に相当するが、60才の人にとっては60分の1に過ぎない。

でも人間は新しい経験をするときには時間を長く感じる。子どもの時は何でも新しい経験だから、それに対処するため脳が活発に働き、時間を長く感じるとのこと。大人になると出来事に対して予備知識があるから脳が活発に働く時間が短い。だから時間が早く経過するように感じる。そういうことはあると思う。インドを旅した時、最初の1週間で1ヶ月経ったように感じた。留学した時は最初の1ヶ月で20年経ったように思えた。

だからもし感覚的に時間の経過を遅くしたいのならば、新しいことをすればいいと言っている。なるほど、常にチャレンジしている人は若々しく見えるが、それはその人の中で時間がゆっくり流れているからなのかも。

2010-02-01

夜は短し歩けよ乙女 [森見登美彦著]


オモチロイ!何度読んでも楽しめる。

春夏秋冬、それぞれの季節に黒髪の乙女と先輩に起こった出来事が綴られている。といっても先輩の片思いが先行しているのだけれど。

春は先斗町、夏は古本市、秋は学園祭、冬は竜巻!?。

不思議で怪しい脇役たちと、ファンタジックな舞台装置が奥深いおかしみを醸し出している。爆笑に次ぐ爆笑。でも文章は詩のよう。オカシイだけでなくて、青春の苦み、しょっぱさ、甘さがよく描かれている。名言多し。読んでいると「お腹の底から幸せになってくるのです」

森見さんの他の作品「四畳半神話大系」にも登場する脇役と場所がここにも出ているのもおもしろい。それから、巻末の「かいせつにかえて」で羽海野チカが書いているように、思い浮かぶ"先輩"は森見さんご本人の姿に近かったが、偏屈王を演じて違和感のないルックスだから、冬編ではも少しカッコよい男子を思い浮かべていた。恋する男子もミメがよくなると思います。