2013-08-21

ワールドウォーZ [マーク・フォースター監督]


予告編で、人間が折り重なって十メートル以上ある壁を越えようとする映像が衝撃的だった。

人間がゾンビ化するウィルスが急速に感染拡大し、地球上の都市が全滅に追いやられてしまう。ブラッド・ピット扮する国連職員が、治療法を求めて世界中を巡り、ついに探し当てる、という話。

「最愛の大地」と同じ日に観たのだけれど、周囲に対して疑念、疑心を持って生きなければならない状況に主人公が追い込まれる、という設定が「最愛の大地」と似ている。

主人公が家族を大切にしているシーンとか、生き残った男の子を家族に受け入れるシーンとか、演じているブラッド・ピットの私生活を垣間見させてもらったような感じがする。

最愛の大地 [アンジェリーナ・ジョリー監督]


1990年代に起きたボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を描いた作品。

当時、セルビア人はムスリム系ボシュニャク人の男性を虐殺、女性の大部分を強制収容して強制的にセルビア人の子を妊娠させていた。ムスリム系人口を消滅させるという民族浄化の目的で。映画はこの強姦収容所を主な舞台にしている。

連行されずに残った人々も、息をひそめて生きなければならない状況。赤ん坊が泣くと住民全員の存在が知られてしまうからビルから投げ落とさざるを得ない状況。自分の周囲すべてに対して疑念、疑心、猜疑を持って生きなければならない状況。

この映画にはアクションを伴う戦闘シーンは殆どない。しかし他の戦争映画が描かなかった、「リアルな戦争」がまさに描かれていると思う。

アンジェリーナ・ジョリーは脚本とプロデューサーも務めている。スタッフの助けもあったと思うけれど、これほどの骨太のドラマを作り上げた彼女に感銘を受けた。セックスシンボル的な美人女優というイメージと別に、本人は本当に強い信念を持って生きているんだ。

映画の冒頭とラストに、ヒロインが描いていた人物画が大写しになる。その人物の顔が、アンジェリーナ・ジョリーによく似ている。自分の作品である、という署名なのかもしれない。

2013-08-10

鴨川ホルモー [万城目学著]


おんもしろい!京都にある四つの大学が、オニを使って隔年で戦い合う陰陽五行説に基づいたファンタジー青春ドラマ。

オニは一般人には見えないのだけれど、使い手である学生たちには見える、ということになっている。それから四つの大学はそれぞれ大学近くに氏神社を持っており、それらが確かに東西南北に位置している事実が興味深い。京都大学=吉田神社、立命館大学=北野天満宮、龍谷大学=伏見稲荷大社、京都産業大学=下鴨神社。

これは青春ドラマだと思う。サークル活動を通した青春ドラマなんだけど、テニスといったスポーツとか、映画といった芸術でなく、オニ合戦を中心に据えたのがすごい発想の転換だ。しかも主人公が三浪(二浪?)した新入生で、その親友が帰国子女でありながらチョンマゲ頭の男の子。これにぶっあいそな理系女子、祇園宵山や葵祭といった京都の風物行事が絡んでくる。

すごく印象に残って、キューンとさせられたシーンの台詞。
「わ、わたしが好きなのは、--お前なの!」

森見登美彦さんの作品といい、京都大学はすごく物語になりやすい場所のようだ。行ってみたい。

2013-08-09

桜姫 [橋本 一監督]


青木崇高君が出演していると時代劇いうことで観ることに。

ポルノ映画じゃん!しかし、原作は歌舞伎の「桜姫東文章」とのこと。

ある城へ将軍家からの下がりものを盗みに入った盗賊が、行きがけの駄賃にその城の姫を犯すが、姫は逆にその盗賊に恋してしまい、城を抜け出して町の女郎屋に女郎として入り、客をとりながら盗賊を探そうとする。青木君は盗賊を演じているのだけれど、逞しくセクシーで引きつけられた。他にでんでん演じる怪坊主、女郎屋の朋輩を演じる麻美ゆま、尼さんを演じる風祭ゆきが、荒唐無稽なこの作品に渋みを加えていたと思う。印象に残ったのは、遊女屋で、盗賊と姫様が風呂に入るシーン。

映画もさることながら、上映館までの道のりもかなり思い出深い。上映館がJR東海道線の国府津駅と鴨宮駅の間にある「コロナワールド」という娯楽センター内の映画館で、行きは国府津から1時間に3本位しかない路線バスで行った。最終上映日だからか、観客は私の他のもう一人だけ。初め劇場に入った時に自分一人かと思ったら、一番後ろの席に一人いた。びっくりした。帰りは国府津まで車通りが激しく人通りがない道を20分以上歩いて戻った。

しかも、この映画の前に、銀座で「マジック・マイク」を鑑賞してからの移動だった。ポルノチックな真夏の一日。面白い経験でした。

マジック・マイク [スティーブン・ソダーバーグ監督]


カリフォルニアの男性ストリッパーの話。

大学中退した男の子が工事現場のバイト先で、チャニング・テイタム演じる人気男性ストリッパーに出会ったのをきっかけに、ストリッパーとして歩み出して行くが、水商売にヤクの売人が絡み...。

メールストリッップの名作に「フル・モンティ」がある。あの映画を観た時からメールストリップを観たい!と思っているのだけれど、なかなかチャンスがなかった。「マジック・マイク」でメールストリップを疑似体験できたよ。フィメールストリップは何回か見に行ったことがあるけれど。

チャニング・テイタムはさすがに踊りがうまい。でもマシュー・マコノヒーにとても印象付けられた。実業家に成り上がろうとする老いたストリッパーを、若い役者たちを引き立てるような脇役に徹して演じていた。マシュー・マコノヒーは、これから「Mud」「Dallas Buyers Club」「Intersteller」などに主演していく。充実している時期ですね。

ソダーバーグ監督は、監督引退、という話だけれど、プロデューサーとして活動を続けているようだし、テレビシリーズの監督はしているようだ。また映画に戻ってきてほしい。

2013-08-07

終戦のエンペラー [ピーター・ウェーバー監督]


広島、長崎の原爆投下シーンから映画は始まる。マッカーサーが厚木基地に到着し、フェラーズ准将に天皇の戦争責任についての調査を命じる。フェラーズが政府、皇室、軍の関係者に事情聴取を行う中で、日本人の特性、天皇の存在意義などがアメリカ人の前に明らかになってくる。

見終わって思ったのは、これはハリウッド映画なのか、ということ。トミー・リー・ジョーンズがマッカーサー役で出演していて、主役はアメリカ人俳優だし、脚本もアメリカ人が手がけているけれど、プロデューサーは日本人。昭和天皇の側近であった関屋貞三郎を祖父に持つ奈良橋陽子氏。日本人の思い入れがかなり入っているように思える。原作は岡本嗣郎著「陛下をお救いなさいまし」。

この映画で、終戦直前に天皇が軍に暗殺されかかっていたことを知った。玉音放送のレコードを奪い、戦争集結をなかったことにするために。映画が描いたフィクションなのかもしれないが、あり得る話だと思う。フィクションといえば、フェラーズと日本人女性の淡い恋も描かれているのだけれど、このエピソードは作品を安っぽくしただけのような気がする。

戦後昭和の間中、天皇の戦争責任については何かと議論されていた。憲法における天皇制存続については熱いテーマだったが、いつの間にかそのことについて論じることがなくなってきたように思う。

実は火野正平さんが東郷役で出演しているということを知って観ることにした。正平さん、うまい役者だ。

2013-08-02

昨日までの世界-文明の源流と人類の未来-下 [ジャレド・ダイアモンド著]


「銃・病原菌・鉄」の著者の最新刊。事情により下巻を先に読んだ。

旧石器時代からの人類の生活と現代の生活を比べ、私たちが「当然」と考えている生活様式が実は特異である、ということを説明してくれている。

下巻で語られているのは、建設的パラノイア、宗教、言語、健康。特に印象に残ったのは建設的パラノイアと言語、健康について。

"建設的パラノイア"というのは、被害に遭う確率が低いリスク行為であっても、その行為を頻繁に行っていれば死ぬ確率が高くなる、ということを知っておくべきだ、ということ。おおげさな、とバカにしないで、ちょっとでもヤバイと思ったら手を引くことだ。

言語について。今英語が話せなければビジネスの上で何かと不便を強いられることがあり、公用語を英語にする日本企業があるが、ダイアモンド先生は、母語を失えば「文化的な崩壊という大きな問題に直面」する、と言っている。「人々はみずからの言語や文化が崩壊してしまうと、自尊心を失い、互いに助け合うようなこともしなくなる。その結果、大きな社会経済的な問題に直面する傾向にある」(p.273)と述べている。これは、アメリカ原住民について述べていることだけれど、日本統治下の朝鮮、アイヌのことを考えると、母語は言うまでもなく他言語を尊重することの重要性に思い至る。

それから下巻を読んでとても衝撃を受けたことは、「われわれの遺伝子構成は、旧石器時代の食生活と生活様式に依然として適合しているのである」ということ。

塩分、糖分はその昔は貴重な栄養分だった。アマゾンのヤマノミ族は今でも月1.5g弱の塩分しか摂取していない。が、秋田県民の1日あたりの塩分摂取量は27gでヤマノミ族の18日分に相当。また、ついこの間まで飢饉が頻繁に起こっていたので、人間の体は糖分を貯め込む構造になっている。というか、糖分を貯め込める遺伝子を持った人たちだけが生き延びた。

というわけで塩分と糖分を欲する体質を持ち、塩分と糖分を貯めこむ構造の人間にとって、塩分と糖分が豊富な現代社会では、必要以上の塩分と糖分を摂取してしまい、高血圧と糖尿病が蔓延するのもむべなるかな。

これを読んで軽いショックを覚えた。そして、空腹になることに怖れを抱く自分を克服しなければ、と思った。例えば仕事帰りに用事があるとお腹が空くといけないから、とおやつを多めに食べてしまう。これからは、空腹でいいんだ、と思うクセをつけようと思う。実は今年に入ってからスナック菓子を買わないことにして、今日まで続いている。今ではスナック菓子を見ても食べたい欲求がなくなった。

ダイヤモンド先生はヨーロッパでは過去に糖尿病になりやすい人たちが淘汰されたのだろう、と言っているが、これから糖尿病になりやすい体質の人が淘汰されるまでにどれだけの税金が医療費に費やされるのか。食品産業は、消費者のというか人類の健康を考えた製品を作る義務がある、と考えなければならないのではないか。