2011-12-20

目黒警察署物語-佐々警部補パトロール日記- [佐々淳行著]


「伊丹十三の映画」を読んでいたら、伊丹十三氏が熱中して読んだとのことなので読むことに。面白い!

警察庁のキャリア組として採用された著者が、警察学校を修了して最初に配属された目黒警察署での新人警察官としての日々を書いている。実際は1954年10月から1955年1月までの約4ヶ月間なのだが、途中、戦争中の回想が差し挟まれたり、その後の自分の経験も書いているので、戦争末期から高度経済成長期までの東京の姿が浮かび上がってくる。

警察組織の人間模様が正直に描かれている。これは警察だけでなく会社でも役所でも組織に共通するものだと思うが、キャリア組として人の上に立つことが決まっている佐々警部補が良き上司となろうと決意する様子は読んでいてほっとする。それに、実際佐々警部補は担当の外勤3班のよき管理職となって外勤勤務評定で署内最高得点を得る。

自分に対してまずは反感を持つ大勢の人たちを相手に自分の仕事を良い方へ持っていこうとするのは実に骨の折れる仕事だけれど、短期間でそれを成し遂げたのは、やはり佐々氏が優秀な人だからなのか。根本の日本社会を良くしたいという気持ちがあったから部下の人たちの気持ちを動かしたのだと思う。やはり前向きな気持ちでいることは周囲にいい影響を与えるのですね。しかし、自慢がちょっとハナにつくかな。

1955年1月で佐々警部補は外勤からデカ部屋へ転属になる。デカ部屋での続編もあるので読もうと思う。

2011-12-15

伊丹十三の映画 [「考える人」編集部編]


三谷さんの「監督だもの」を読んだので、以前に買ったままだったこの本を読むことに。

おもしろい。非常に興味深く熱中して読んだ。

伊丹映画の関係者、プロデューサー、俳優、撮影監督、助監督、美術、メイク、スタイリスト、フードコーディネーター、制作、翻訳、通訳ほか様々なスタッフの談話と、心理学者岸田秀先生による伊丹映画の解説、最後に宮本信子さんから伊丹監督への手紙で構成されている。

これを読んで、伊丹十三が映画監督になったことが日本映画の分岐点になったのかということがわかった。

例えば、監督が撮影中にモニターを見ること。渡辺哲氏が、北野監督は撮影中モニターばっかり見て自分を見ないから嫌われているのかと思った、と言っていたが、今では当たり前になっている監督が撮影中にモニターを見ることは伊丹氏が始めたことだった。

それから、映画中の食べ物を小道具担当ではなくフードコーディネーターが用意するということ。伊丹監督がいなかったら女の子のカルト映画「かもめ食堂」はなかったかもしれない。

俳優の人たちは概ね伊丹監督に好意を寄せている。決して大声をあげることがなかったとのこと。みなさん思い入れを熱く長く語っているなかで、大滝秀治氏のページだけがたった7行。伊丹監督が言ったという、リハーサルは表現のブレを一本の線に安定させるためなのです、という言葉が印象に残る。

他に強く印象に残っているのは、岸田先生の伊丹映画の解説。「お葬式」で父を乗り越え、「タンポポ」で父と拮抗する力を得るまでに成長し、「マルサの女」で父から離れて社会正義を追求するようになった、と伊丹監督の映画から父に対する確執の変遷を読み解いている。

それにしても、自分が思い描く通りの映画を作るために自分に妥協することなく、他者にも容赦なく理解を求める強さに感銘を受ける。信念を強く持つ、というのはこういうことなのか。わがままに振り回されていると感じても、結局スタッフの人たちは伊丹監督に尊敬の念を抱いている。

この本を読んで、三谷さんは本当に伊丹監督と親しかったんだ、ということがわかった。

この本は、京都一乗寺の書店、恵文社で購入したもの。その意味でも大切な本です。

2011-12-01

監督だもの-三谷幸喜の映画監督日記- [三谷幸喜話 伊藤総研構成]


映画「ステキな金縛り」のメイキング本。

企画、ロケハン、キャスティング、撮影、編集の段階毎の三谷氏の感想と関係者のコメントが並んでいる。製作裏話満載、の本。

自分が思い描いていることの実現に、他人が力を貸してくれて、本当に形にしてしまうのは、人生の醍醐味だろうと思う。

三谷氏は決して妥協することなく、自分のイメージを追求している。強い精神力だ。周囲のちょっとやる気ない顔を見ただけで「じゃ、いいや」と折れてしまうような、ぐらぐらした個性(それは自分なのだけれど)では何事も成し遂げられないはずだ。

読んでいて、これは伊丹十三監督を意識して編集されているのではないか、と思った。「マルサの女日記」と形式は違うけれど、映画製作の関係者の話を集めて、三谷監督がどれほど映画製作に心血を注いでいるか、をアピールしている。三谷氏本人が書いたのではなく、実際には編集者、というか構成の方が"書いている"から自己顕示的なイヤミは感じられないけれど、それでも伊丹氏を意識しており、あわよくば凌ごう、としているような気負いが感じられる。その気負いは三谷氏本人から出ているものではないけれど。

「ステキな金縛り」を観た後でもやはり、私にとってのベスト三谷作品は「マジック・アワー」です。