2010-07-16

赤い霧 [ポール・アルテ著]


おもしろい!怪奇幻想の世界。

19世紀末のイギリス、9年前にあった密室殺人事件を解決しようと一人の青年が田舎町を訪れる。9年の間に少女から大人の女性に成長したヒロイン、行方不明のままの被害者の長男。明らかにされる被害者の行状。正体不明の主人公。

一人称の作品なのに、主人公が誰なのか第一部の後半になるまでわからない。アガサ・クリスティの「アクロイド殺し」のトリックではないかと、すべての描写を細心の注意を払って読んでいた。何度も冒頭から読み返したりして。

ベテラン(?)の推理小説ファンは、作者のトリックに引っかかるまいと読んでいくのが面白いが、それほど経験を積んでいない時に読んだら、唐突なプロットの変化についていけなかったかもしれない。

この作品には3つの事件が重奏している。第一部では密室殺人が解明され、ちょっとしたどんでん返しもある。第二部が描くのはその後日談のようでいて、実は第一部で密かに提示されている伏線によって、この作品が扱っている事件の本当の真相が語られる。

作者はフランス人だが、だからか、19世紀末のイギリスの雰囲気がよく描かれている。この作品は2004年に出版された。作者の看板作品はツイスト博士シリーズとのこと。これも読んでみようと思う。