2009-11-06

チャイルド44 [トム・ロブ・スミス著]


おもしろい!!!!!

旧ソ連の、スターリンからブレジネフに代わる時代を背景に、連続殺人事件に気づいた情報将校が犯人を追っていく話。なのだけれど、警察小説のように現場で聞き取りしたり、同僚と推理を重ねたりしながら捜査を進めていくのではない。冒険小説並みの過酷な試練と純文学のような人間性の追究も同時に描いている。

色々な要素が絡み合っているけれど、すべてがしっかりと縒り合わさってストーリーを作り上げている。独裁政権下の疑心暗鬼の生活、経済破綻による生存の危機、官僚主義による社会停滞。しかし本質は変わらない人間を描いている。周囲の誰も信用できないという状況はすごくスリリングで、緊張感に溢れているけれど、その環境を作るため旧ソ連を持ち出してきた作者の発想が非凡だ。

もしかして作者は旧ソ連を生きた両親の下に生まれたのかと思ったが、生まれも育ちもイギリスだった。ケンブリッジの英文科を主席で卒業したとのこと。頭のいい人は本当に優れているのですね。

私がこの作品を評価するのは、主人公の妻も"主人公"といえるほど積極的に果敢に人生を生きている姿が描かれているから。それと、主人公と両親との関係から人間の不可思議な善が漂っていること。

旧ソ連が崩壊したのは、競争を排除した共産主義のせいでなく、多様であることを認めなかったからと思う。多様である社会は破綻しにくい。それは国ばかりでなく、企業や学校、家庭、一人の人間でもいえることだと思う。