2009-08-19

チェイシング・リリー[マイクル・コナリー著]


ナノテクのベンチャー企業のオーナーが、引っ越し先の間違い電話を受けたことから失踪した売春婦の行方を追うミステリ。

素人探偵なのに、頭を働かせてどんどん情報を集めていく。主人公はスタンフォード大卒という設定だけれど、頭のいい人は物の考え方がちがう。といってもそれは、作者コナリーが全部お膳立てしているからなのだけれど。それでもかなり夢中になって読んでしまった。

探偵ごっこと交互して主人公の専門分野の説明が出てくる。いわゆるナノバイオについて、ベンチャー企業の経営管理についてなど。コナリーのことだからいずれ終盤でこれらが全部関係してくるんでしょう、と思っていたら見事に縒り合わさった。

中盤、主人公のピアスの行動を反対側から見れば、すべてが彼を加害者と指摘しているという展開にぞっとした。冤罪はこんな風にしてできあがるのか。

以前の作品「夜より暗き闇」を読んでいて、チャンドラーの「長いお別れ」を思い出したけれど、この作品でも前半に少しだけ「長いお別れ」を思い出した。死んだ女と鍵を握る女の両方を追っているからか。それからもちろんこの作品は、エルロイの「ブラックダリア」の系統でもある。

原題は「Chasing The Dime (チェイシング・ダイム)」。チェイシング・リリーは邦題。なぜ、原題と全く異なる意味の邦題をカタカナでつけるのだろう。コナリーの「ナイト・ホークス」は原題をカタカナにしたものかと思っていたら、原題は「The Black Echo」だった。

訳者はあとがきで、この作品にはコナリーの以前の作品のキャラクターが登場し、しかも主人公も以前の作品のどこかに登場しているようなことをほのめかしている。「いやいや、それは読んでのお楽しみだ」とお茶を濁しているけれど、あとがきなんだからネタバレしてくれよ。

コナリー作品は、2001年の「夜より暗き闇」(原題:A Darkness More Than Night)を最後に読んでいなかったけれど、また読もうと思う。