2012-08-15

世界推理小説大系 1マリー・ロジェの秘密 [ポー著] 黄色い部屋の秘密 [ルルー著]


三谷幸喜氏がエッセイで都築道夫著の「黄色い部屋はいかに改装されたか」について書いていたのを読み、そういえば「黄色い部屋の謎」をまだ読んだことがない、と読むことに。

この巻に含まれているのは:

エドガー・アラン・ポー著
□マリー・ロジェの秘密
実際にはニューヨークで起こった美女殺人事件をパリに置き換えて、ノンフィクションとして語っている、というスタイルのミステリ。一度行方をくらましたことがある宝石店の美人店員が、再び行方不明となり、とうとう遺体となって発見される。探偵が、新聞記事から失踪状況を正確に描き出し、犯人を特定していく。

新聞記事の扇動的表現と記述の矛盾を突いて真相解明しており、作品のテーマは新聞批判かもしれない。

□盗まれた手紙
フランス政界を揺るがす醜聞を引き起こしかねない手紙が盗まれる。警視総監は持ち去った犯人は政界有力者の一人と特定しているものの、家宅捜査でも手紙は見つからず、総監の友人である探偵オーギュスト・デュパンが謎を解く。

あまりにも有名な作品。初めてちゃんと読んだ。すでにネタバレ状態で読んだわけだけれど、手紙はただ状差しに入っていたわけではなかった。

□犯人はお前だ
フランスの田舎で町の有力者が行方不明となり、村人総出で捜索が行われる。

ミステリファンならすぐに、こいつが怪しい、と犯人がわかるのだけれど、ポーは犯人を追いつめて犯行を告白させるのに、ちょっとしたトリックを使っている。

□モルグ街の殺人
本格推理黎明期の名作。初めてちゃんと読んだ。

不可解で凄惨な殺人現場、まちまちな証言、一見無関係と思える方面から手がかりを得る探偵。そして、読者がエぇーーっと驚く真相。本格推理の王道条件全てがここから始まったのか。

探偵オーギュスト・デュパンと語り手の出会いが語られているのだけれど、オーギュスト・デュパンの厭世的な生活ぶりはシャーロック・ホームズと似ている印象。そのことは周知の事実ですか?名前はルパンに似ている。

「モルグ街…」は1841年発表。明治維新の前です。

□黄金虫
「モルグ街…」に並ぶミステリの名作。ずっと「黒猫」のような怪奇小説なのかと思っていたが、最後まで読んだら全然違った。実際は暗号小説。後半、暗号を解読していく過程がスリリングだ。しかし、骸骨の形をした金色の虫をジャングルで見つける出だしはちょっと怪奇小説風。

暗号が小説のテーマというのは、当時は衝撃的だったろうと思う。


ルルー著
□黄色い部屋の秘密 
密室で令嬢が襲われて重傷を負う。犯人はどこから侵入し、どこから逃走したのか。警視庁の有名警部と少年新聞記者が推理を競い合う。

ミステリ史には必ず「黄色い部屋…」の名が上がるが、ミステリファンはこの作品のどこに魅了されているのか。まず、「黄色い部屋…」は「モルグ街の殺人」のネタばらしをしている。密室トリックは新奇ではあるし、終盤に意外な展開が用意されていて名作ミステリとしての条件は揃えているが、作者は、物語進行が一段落すると大仰な修飾語で読者に対して今後の展開を期待させる文章を連ねる。その割に人間ドラマは希薄。

解説で中島河太郎氏も「その演出がフランス流の派手で、子供っぽく見えるのが印象的である」「ルルーは処女作において最高水準を示した。その名声は骨格のユニークさに存したのだが、彼は肉付けにだけ専念して通俗に堕し、短所を露骨にさらけ出してしまった」と述べている。

有名で人気のあるフランスミステリ作品にアルセーヌ・ルパンシリーズがある。ルパンは1906年に発表、「黄色い部屋…」は1907年発表。


以上の作品が収録されているこの本は、1973年(昭和48年)発行の推理小説全集の第1回配本。監修に松本清張、横溝正史、中島河太郎、3氏の名前がある。