2011-09-14

ドラゴン・タトゥーの女 [スティーグ・ラーソン著]


壮大で深く、謎に引き込まれる作品。しかもメッセージがある。そして、発行前に著者が50才の若さで急逝したのもこの作品をいわくつきのものにしている。

物語の構成は少し複雑。日本語版の場合、上巻では、ジャーナリスト、ミカエル・ブルムクヴィストとパンク少女の保険調査員リスベット・サランデルの話が平行して描かれる。ブルムクヴィストは、巨悪企業のスキャンダルを記事にして逆に名誉毀損で有罪判決を受ける。が、彼のあきらめない調査姿勢を買った大富豪から、40年前に起こった姪の失踪事件の調査を依頼される。一方で作者は、社会とうまく折り合いを付けて生きていくのが苦手なリスベットの生活を通して、社会的弱者が置かれている状況についても描いている。

下巻でブルムクヴィストとリスベットが出会い、一緒に失踪人調査を進める。事件は意外な方向へ進み、二人に危機が迫る。ミステリーとしての面白さを十分堪能できるのだが、作者はここで話を終わらせず、現在のスウェーデンが抱える問題に対してメッセージを突きつけるところまで書き進めている。原題は「女を憎む男たち」。この作品のメッセージの一つを表わしていると思う。

40年前の事件を今更調査しても、新たな証拠が出るはずがない、と思いきや、21世紀のテクノロジーがあってこそ浮かび上がってきた事実があり、主人公たちは一気に真相に近づいていく。

スウェーデン人作家の名作といえば、マイ・シューバル/ペール・ヴァールーのマルティン・ベックシリーズ、リンドグレーンの長靴下のピッピシリーズなどがあるけれど、この作品にはそれらへのオマージュではないかと思える部分が多数あり、マルティン・ベックシリーズやリンドグレーンに親しんだ者として読んでいて楽しかった。主役2人は、リンドグレーンのピッピとカッレくんをイメージして作られたらしい、と上巻の訳者あとがきに書かれている。

ところで、作品中にメールアドレスなどがはっきり明記されていて、現実に差し障りないのだろうか、と思ってしまった。それから、スウェーデンといえばフリーセックスの国、というイメージもあるのだけれど、やっぱりそうなのか、と思うところもあった。食事のシーンがいくつかあって、レバーペーストのサンドイッチをよく食べている。レバーペースト。懐かしい。食べたくなってしまった。

スウェーデンではすでに映画が制作されヒットしたとのこと。ハリウッド版が2011年11月に公開される。主役のミカエル・ブルムクヴィストはダニエル・クレイグ。予告編を見る限り、かなり原作に忠実のよう。MGMがこれで資金を稼ぎ、ダニエル・クレイグの契約で残っている最後の1作の007シリーズを制作してほしいところ。