2009-06-18

東京の下町 [吉村 昭著]


著者が子ども時代を過ごした、戦前、戦中の日暮里あたりの町の情景を描いたエッセイ。

よく戦前、戦後という言い方をするけれども、戦争が始まる前、大人たちは「震災前」「震災後」と言っていたとのこと。

これまでも、東京(江戸)は火事や地震で街並みが一瞬のうちに失われるという経験を何度もしているから、町の景観を大切に引き継いでいこうという意識があまりないのかもしれない。

「昔はよかったというけれど、決してそんなことはない」と何度か言っている。蚊、蝿などの害虫の発生のことや、ドブさらい、汲み取りのこと、子どもが疫痢にかかって死ぬことが多かったことなど、日本も途上国と変わらない状況だったのがわかる。

それから、人々の他者に対する思いやりだけでなく、差別意識、不信感などがあったことについても書かれている。

良いことも悪いことも、今はもうなくなっているが、現在の良いことも悪いことも60年後にはまたなくなっているでしょう。

その時代時代の情景を文章でも残しておくことは、必要だなぁ、と思う。街並みを残しておくことができないのだから、尚更。