2012-12-20

消えた錬金術師 [スコット・マリアーニ著]


元特殊部隊員で子どもの誘拐を専門に探偵・救出者として仕事をしているベン・ホープが主人公。

ベンは大富豪から、不治の病に侵されている孫娘を救うために不老不死の薬の処方が書かれた20世紀初頭に実在した錬金術師の手稿を探すよう依頼される。ベンが子ども専門の仕事をしているのは、子どもの時に妹が行方不明になったことに由来するのだが、孫娘の名が彼の妹の名と同じであることから、彼にとっては分野違いの物探しをすることになる。ここに、不老不死薬を研究している若い女性研究者、錬金術師の手稿を探す宗教組織、フランス警察のマッチョな警部などが絡んで、謎を巡る逃走劇が繰り広げられる。

20世紀の錬金術のこと、カトリックから異端扱いされたカタリ派のこと、などなど歴史背景はきちんと書かれている。が、私の印象は、冒険ハーレクイン小説。

ベンは、ベンジャミンのベンではなく、ベネディクトのベン、だという設定に惹かれて読むことに。ということで読んでいる間中、ベン・ホープのイメージはずっとベネディクト・カンバーバッチでした。

2012-12-15

アラビアン・ナイトの世界 [前嶋信次著]


1970年に発行された前嶋先生のアラビアン・ナイト解説本の文庫版。前嶋先生はアラビアン・ナイトの全説話を日本語訳にすることを始めた方。

前半は前嶋先生とアラビアン・ナイトとの出会いと、平凡社の東洋文庫から出版することになった経緯などが語られている。さらに研究者によるアラビアン・ナイト起源説をめぐるこれまでの学術論争などについて書かれ、アラビアン・ナイトとその他の古典文学との類似性について論証している。シンドバードとオデュッセイアの類似点などの検討。さらに、アラビアン・ナイトが各地域の説話から影響を受けていることを読者に知ってもらうために、アラビアン・ナイトから一つの物語を取り出して掲載している。

この本の目的は学術的な考察なのだけれど、わかりやすい文章で読み物として楽しめる。

別巻を除いて全18巻発行されているが、前嶋先生は12巻の途中で力尽きてしまわれた。池田修先生が引き継いで日本語版アラビアン・ナイトが全巻刊行されたという経緯がある。私は10年近くかけて全巻読破した。あれからさらに10年以上経って、偶然この本を見つけて読んで、アラビアン・ナイトの面白さを思い出した。

アラビアン・ナイトを読んでいる時からずっとバグダッドに行ってみたいと思っている。アラビアン・ナイトの時代の面影はもう街中にないだろうけれど、バグダッドという町をこの目で見てみたい。私が老人になって死ぬまでの間にはバグダッドが平穏な町に戻る日が来ると思う。それまで待つつもり。

2012-12-10

パンプルムース氏のおすすめ料理 [マイケル・ボンド著]


グルメガイドの秘密調査員となった元パリ警視庁の敏腕警部が主役。格付け調査で訪れたホテルで殺人事件が起こり、グルメ調査と事件捜査に奔走する。

飼い犬も主人公に劣らぬ美食家という設定。ユーモア小説というかお笑い小説なのかもしれないけれど、フランスのユーモアが肌に合わないのかあまり笑えなかった。

作者はくまのパディントンの作者でもある。

2012-12-05

007 スカイフォール [サム・メンデス監督]


シリーズの中で一番人間ドラマが描かれている作品だと思う。

ダニエル・クレイグシリーズは1作目と2作目は、ジェームズ・ボンドの恋人への愛にまつわる話だったが、3作目は母への愛がテーマなのかな、という気がする。M役のジュディ・デンチを史上最高齢のボンドガールと呼ぶ映画評論もあった。

Mのドラマがジェームズ・ボンドと同じ位の比重で描かれており、名女優ジュディ・デンチがMをリアルな存在として演じている。2作目と3作目の間にMは未亡人となり、ハイテクマンションから市内の戸建てに引っ越しているし、高齢を理由に退職を迫られてもいる。ボンドの荒唐無稽なスパイアクションとは別の、役人としての情報部員のドラマが描かれている。

敵役はハビエル・バルデム。敵の本拠地が軍艦島のような島だったので、世界にはこういう島が他にもあるんだ、と思ったら、最後のクレジットロールにロケ地としてGUNKANJIMAと出てきた。

レイフ・ファインズがM=ボンド側と対立するMI6の監視役として登場。なんてイヤミなエリートなんだ、と思っていたら後半、Mが襲撃されるシーンで活躍。ラストでボンドの上司役Mに就任し、ボンドとチームを組むことになる。この作品で一番カッコいい役だ。

ダニエル・クレイグ007はショーン・コネリー007へのオマージュに溢れている気がするのだけれど、終盤、ボンドの故郷が登場して決定的だ、と思った。ショーン・コネリーが007役を演じることになった時、ジェームズ・ボンドはスコットランド人ではない、という批判があったらしい。でもボンドの故郷スカイフォールをスコットランドにしたこの作品は、スコットランド人であるショーン・コネリーへのオマージュではないか、と思う。

冒頭シーンでボンドの同僚として追跡、戦闘シーンで活躍するイブが、ラストでMの秘書となり、本名がマネーペニーであると明かす。007シリーズの原点に戻っての幕引きだが、内心、ミスマネーペニーはやがてMI6で昇進して、新たな"M"になるのではないかな、と勝手に妄想してしまった。

裏切りのサーカス [トーマス・アルフレッドソン監督]


2回目の鑑賞。

2回目の方はストーリーの流れと人物関係、伏線がよくわかり、より深く映画を鑑賞できた。

1960年代の冷戦下のイギリス情報部。ソ連のスパイが情報部内に潜んでいることがわかり、内務省は退職した情報部員のジョージ・スマイリーに秘かに調査を依頼する。スマイリーは現職の若手情報部員であるピーター・ギラム(B.C!)を仲間に引き入れ、捜査を進める。

その頃、ソ連大使館の職員がイギリス情報部に内通しており、スマイリーはこの内通が逆にソ連に西側の情報を流すチャンネルになっているのではないか、と睨み、関係者を一人一人洗い出していく。

スタイリッシュな映像と緊迫の演出。イギリスのベテランから中堅までの名優たちの演技。何度観ても面白い作品だ。

前回はまだベネディクト・カンバーバッチのファンでなかったのだけれど、その後彼のファンになったので、もう一度観ることに。彼が登場する度にニンマリしてしまったのでした。

ドライブ [ニコラス・ウィンディング・レフン監督]


最初のシーンから"ドライバー"の世界に引き込まれた。

車のドアが閉まった瞬間、エンジンオイルとガソリンと、芳香剤がまじった湿った空気の匂いを嗅いだような気がした。

犯罪現場から実行犯を逃がす走り屋をしているドライバーが主人公。冒頭シーンで、強盗を乗せ警察の追跡を振り切るのだが、このドライバーは只者ではない、と思わせる演出が秀逸。ビルの影になった暗闇に停車したり、バスケットボールの試合会場の駐車場に駐車したり。スピードだけではないカーチェイスを描いている。

ドライバーは同じアパートに住む亭主が服役中の母子家庭と親しくなる。亭主が出所してドライバーと三角関係になるのかと思いきや、この亭主がまたドラマを深めるような人間性を備えている。結局この前科者亭主はもう一度犯罪に手を染めなければならなくなり、ドライバーが協力することになるのだけれど.....。

ライアン・ゴスリングが、潜在する凶暴性を押し隠している、静かで寡黙で愛らしい一面を持つドライバーを演じている。「ラース、とその彼女」の彼とは別人のようだ。

激しいアクションシーンは少ないが、静かな車内に緊張が漲り、次に何が起こるか、観ている間中心臓がドキドキさせられた。

監督はデンマーク出身。原作は米南部出身でイギリスに移住した作家ジェイムズ・サリス。脚本はイラン出身のホセイン・アミニ。2011年カンヌ国際映画祭監督賞受賞。

2012-11-23

文房具を楽しく使う ノート・手帳篇 [和田哲哉著]


ステーショナリープログラムというブログの記事をまとめた本とのこと。著者は文房具好きブロガー。

ノート類を分類し、著者自身と家族のノートの使い方について紹介している。文章が丁寧すぎるほど丁寧な口調。

火刑法廷 [ジョン・ディクスン・カー著]


ニューヨーク郊外に別荘を持つ若き編集者とその新妻。別荘の隣人の老人が死去するが、毒殺の疑いがかかる。亡くなった夜に古風なドレスを着た女が部屋から消えたという噂が立ったのだ。

隣人のオカルトめいた悲劇に巻き込まれるうち、編集者は新妻が抱える暗い秘密に気付き始め、夫が担当する人気作家が描く魔女伝説と現実が錯綜しはじめる。

20代の頃に読んだことがあり、その時は事件が論理立てて解決された後にカーが提示したラストシーンにぞっとした。

今回もう一度読んでみて、前回ぞっとしたラストシーンに対して、「あらあらずいぶん自意識過剰なのねぇ」と批判的な印象を持った。こんなにバカな自分でさえも、トシを取れば図太くなるのか、と妙な感慨を持ってしまった。

二転三転する事件の見方、人間関係、オカルト。色々な要素が入り混じって、夢中になって読んでしまうミステリ。

2012-11-16

アルゴ [ベン・アフレック監督]


おんんんんもしろい!!!!!久々に、これぞ「え・い・が」!という作品を観た。

1979年。ホメイニ師が政権に就いた革命直後のイランで、反米デモの群衆にアメリカ大使館が占拠される。ビザ発給部署の6人は占拠される直前に大使館を抜け出し、カナダ大使の自宅へ逃げ込む。この6人をCIAがカナダの映画製作スタッフに偽装させてイランを出国させるまでを描いている。

脚本も映像も役者も、そして演出が素晴らしい。70年代の映画のようなカメラワークと色を使っているだけでなく、スター・ウォーズ以前の70年代の映画にある映画らしい面白さが全て詰め込まれている。

1本の映画の中で、官僚、映画業界、諜報局、逃亡者、と全く異なる世界を次々と描いている。

上司と部下の駆け引き、裏切られるかもしれないという不安、"クレージー"な豪華さ、懐疑的だった登場人物が最後に全員を救う妙、逃げ切れるか追いつかれるかの緊迫感。しかしこの作品はアメリカを"善"とは描いていない。

これが実話に基づいていないオリジナル作品だったら、単によくできたサスペンスドラマ、という評価になったと思う。実話に基づいている、ということが相当観客の印象を変え、感銘を与えていると思う。

ベン・アフレックが監督と主演。映像の隅々に監督のこだわりが詰まっているのがよくわかる。すべての監督は自分の映像にこだわりを持っていると思うけれど、それをひしひしと感じた。ベン・アフレック、完全に復活しましたね。ハリウッドの伊丹十三だ、と思った。

この映画は、2013年ゴールデングローブ監督賞、作品賞を受賞した。そして!第85回アカデミー賞の作品賞も。ベン・アフレックの受賞スピーチ"It doesn't matter if you get knocked down in life. All the matters is that you get back up."に涙ぐんでしまった。

シルク・ドゥ・ソレイユ3D 彼方からの物語 [アンドリュー・アダムソン監督]


カナダを本拠地にするサーカス団シルク・ドゥ・ソレイユの、ラスベガスで常設しているいくつかのショーをまとめて一つの物語にした映画。

劇場で観る方が臨場感がありもっと感動するのだと思うけれど、演技を間近で観る映画も楽しめた。10年位前、ラスベガスに行った時「O」が大人気のショーで、当日券を買うことができなかった。「O」は今でも上演されているけれど、ラスベガスまで行かなくてもショーを観ることができてよかった。

しかし3Dって意味があるんだろうか。3Dもいろいろな種類があって、持っている3Dメガネを券売り場で見せたら、このメガネで観るタイプの3Dではない、と別のメガネを売りつけられそうになった。さらに、眼鏡の上から3Dメガネをかけるとメガネが気になって映画に集中できない。この作品は、大画面で観るだけで十分楽しめる。映画館の大画面でこそ観るべき作品。

製作総指揮 ジェームズ・キャメロン

2012-11-05

のぼうの城 [犬童一心、樋口真嗣監督]


面白い。日本映画、ここまで面白いか。

戦国時代、北条勢を追いつめ天下統一を狙う豊臣秀吉は、部下の石田三成に関東の忍城(おしじょう)の制圧を命じる。しかし、思いのほかしぶとく抵抗を続ける忍城に、三成は水攻めで攻め落とそうとするが....。

水攻めのシーンが津波を連想させるというので、2011年に公開が見合わされた作品。たしかに、水攻めのシーンは津波を連想させる。というかあの津波の映像を見てこのシーンを撮ったのか、と思うほど。しかもスペクタクルな水攻めシーンが前半は秀吉による作戦として、後半には三成の作戦としてそれぞれ登場する。

後半、三成によって水攻めされた忍城の領民が城に押し寄せるシーンがあるのだけれど、それが被災地の避難所そのものだった。

登場人物は、忍城老中の息子、成田長親。野村萬斎が演じている。当て書きしたのか、というほど役と役者がぴったり合っていてびっくり。城を包囲する石田勢の注意をそらすために舟の上で狂言を演じたりするのは、このシーンのために野村萬斎を選んだのかと思った。

映画公開前に原作本が出版されて話題になったのだけれど、イトイさんのツイッターを見ていたら、映画のシナリオが先にあって、小説化されたとのこと。すると、野村萬斎が主役と決めて映画を制作することになったのか。

どの役者もみな素晴らしいのだけれど、主人公の野村萬斎は別として、石田三成を演じた俳優に強い印象を受けた。頭が切れて冷酷そうなのにどこかお人好しで、秀吉好みの愛嬌がある三成を演じている。この役者すごいな、と思ったら上地雄輔だった。

実は平岳大氏のファンなのでこの映画を観たのだけれど、この作品の彼はその魅力がよく発揮されていなかった。次回に期待。

2013年にはいくつか時代劇映画が公開されるそうで、「のぼうの城」はその先陣を切った作品として記録されると思う。

エンドロールに、映画の舞台となった現在の行田市に残る史跡の数々が映し出された。石田堤の跡や、忍城の名が残る小学校、城門の名を留めた交差点、戦死者を弔った寺など。昔からの地名を残すことは、郷土愛を生むと思う。行政の一時の都合で変えてはいけない。

2012-11-03

LCCの使いかた-得する格安航空旅行- [イカロス出版編]


今話題の格安航空界者Low Cost Carrierについてのガイドブック。LCCの仕組み、LCCを利用する際の注意、LCC各社の紹介、
モデルプランなど。

たしかにLCCは安い。荷物の大きさと重さ、厳密なチェックイン時間、シートの狭さ、機内食なしなどの制限があるけれど、近くを旅するのであれば普通の航空会社の半額で移動できるのは魅力だ。ソウル、釜山、北京、上海、台北、香港あたりまでだったら格安航空で行くのもいいかもしれない。

以前ジェットスターのホームページで料金を調べたら、往路はキャンペーン価格で安くても復路がそれほど安くなく、しかもブランケットや機内食を追加したら結局普通の航空会社の料金と変わらなくなってしまった。安い安い、というけれどよく吟味しないとだめなようだ。ヨーロッパやアメリカ、東南アジアなど、都市間の距離が短い区域なら格安航空はすごくお財布にやさしいと思う。

しかしLCCにすごく興味がある。東南アジアではインドネシアとフィリピンにまだ行ったことがないので、インドネシアにLCCで行ってみようかと考え中。

2012-10-28

とり・みきの映画吹替王 [とりみき著]


今や貴重な資料だ。とりさん、よくぞこの本を作ってくれました。広川さん、那智様、納谷さんのお話しを読むことができる。

子どもの頃、テレビの吹き替え版映画で映画の面白さを知った。俳優本人の声も含めての演技であり映画そのものなのだ、という意見もあるけれど、やっぱり内容がよくわかった方が面白い。それに、今の声優ブーム、というか世間の声優好きは、この吹き替えのおかげではないかと思う。すごく魅力的な世界を繰り広げてくれたからこそ、声だけの演技に多くの人たちが魅了されたのではないかと思う。でも声優の方々は、声優じゃないんだ、役者なんだ、という自負を持っていらっしゃる。本当に、みなさんの一つ一つの仕事にかける真剣さが映画を面白くしたと思う。

吹き替えの方法に、同時録りと別録りがあることを知った。ハリウッドアニメは別録りとのこと。役者が一人でブースに入って、自分の役の台詞だけを吹き込む。演技の上では相手役の声優とまったく絡まない。でも画面では複数のキャラクターが絡んでいる。若山弦蔵さんは別録り派とのこと。アテレコはスクリーンで演じている俳優にいかに合わせるかであって、共演者との絡みは考えなくていいのだ、という。しかしこういった別録り派は少数で、羽佐間さん、広川さんは、芝居は共演者間のリアクションで良くなっていくのだという考え。たとえそれが洋画のアテレコであっても。

羽佐間さんの「若手に対して「だめなんだよ」と言う人は昔からたくさんいるんですよ。いつの時代でも。でも本当に大事なのは「若手から盗む」ことなんです」という言葉が印象深い。どの業界でもいえることだと思うし、若手から盗む気合いのあるベテランこそが生涯現役として活躍できるのではないかと思う。

再放送の報酬についての労働争議についての記事も掲載されている。華やか(?)な声優業界の先達の苦労を知ることができ、本当にこの本は貴重だと思う。

むか〜し、FM TOKYOでサントリーがスポンサーの番組があり、そのCMは名画の一場面をウィスキーに関連付けて吹き替えした声優が演じていた。カサブランカ、パリの恋人など。その声優の声を聞くだけで映画のシーンが脳裏に甦ったものだった。

2012-10-21

帽子収集狂事件 [ジョン・ディクスン・カー著]


ロンドンで帽子を盗まれる事件が多発。犯人には「不思議の国のアリス」のいかれ帽子屋の名がつけられるが手がかりがないうちに、古書収集家の帽子も盗まれる。

さらにその古書収集家が入手していたポオの未発表原稿が盗まれ、その上甥の新聞記者までもがロンドン塔で盗まれた帽子を被った遺体となって発見される。ロンドン警視庁の友人から原稿盗難事件の捜査を依頼されたフェル博士が、いきがかり上、殺人事件、さらに帽子盗難事件も解いていく。

ポオの未発表原稿、というのは何かとミステリの題材として登場することが多い。

古書収集家を取り巻く人間関係からフェル博士は真相に辿りつくのだけれど、20世紀初頭のロンドンの風俗が描かれているのが面白い。それから半世紀、戦争を経て人間の生活はすっかり変わってしまった。この時代だから描けるトリックというのもあると思う。

2012-10-18

團十郎の歌舞伎案内 [十二代目市川 團十郎著]


おもしろい!すごく面白い。ものすごくおもしろい!!!

十二代目市川團十郎が、平成19年に青山学院大学の日本文学科客員教授として行った集中講義をまとめたもの。初代から十一代までの團十郎の紹介を軸に、歌舞伎の歴史と歌舞伎の演目について解説している。

この本は本当の日本史を描いている。授業や歴史小説で知る日本史はその時の権力者を中心に構成されているけれど、この本は庶民の視点からの文化の変遷をおしえてくれる。

歌舞伎は、女性による阿国歌舞伎踊りから始まり遊女歌舞伎を経て野郎歌舞伎になったとのこと。女役者は性風俗と同一視されて禁止されたらしい。

歌舞伎のあり方について語っている点について共感した。

"「私たちはここで満足です。これ以上はもういいです」という謙虚な姿勢があれば起こるはすがない事件だと思います。歌舞伎もそういう危険な領域に入っていかないよう気をつけなければなりません。-略-もちろん、ある程度の儲けは必要だけれど、それ以上に欲張らない。そういう芸能であってほしい。決して守りの姿勢に甘んじなくとも、それは可能だと思っております"

日本という国が今後あるべき姿でもあると思う。欲をかいては自滅する、というのは寓話によくあるパターンではないか。歌舞伎が17世紀後半から3世紀半も続いているのは、そういった謙虚を忘れていないからではないかと思う。

この人は役者でありながらも、郷土史家でもある。巻頭の写真ページに子どもの頃の写真があり、ものすごくハンサムな少年でびっくりした。こんど宮尾登美子著「きのね」を読んでみようと思う。

2012-10-08

ウー・ウェンの中国調味料&スパイスのおいしい使い方 [ウー・ウェン著]


タイトル通り、中国独自の調味料とスパイスを使った料理の紹介。取り上げられているのは、甜麺醤、豆板醤、腐乳、豆豉、オイスターソース、花椒、八角、クミン、五香粉、陳皮。

特に甜麺醤、豆板醤の使い方が参考になる。豆板醤は麻婆豆腐を作る時くらいしか使わなかったが、甜麺醤と合わせたり、はちみつと黒酢と合わせたり、辛味だけでなく、色々な味付けに使えることがわかった。

それから、香辛料の炒め方。熱した油に入れるとすぐ焦げてしまうが、鍋に油と香辛料を入れてから火にかける、とのこと。なるほど。

手作り肉みそ、手作り具だくさんラー油、手作りXO醤、自家製ラー油は重宝しそうなので、作ろうと思う。

中華材料屋で干し貝柱、干しエビをよく見かけるが、この本で使い方がわかった。

2012-10-04

僧正殺人事件 [ヴァン・ダイン著]


都筑道夫著「黄色い部屋はいかに改装されたか?」に、外せない本格推理の古典とあったので読むことに。

ニューヨークの高級住宅街の一角で、ある男が弓で胸を射られて殺される。その男の名はクック・ロビン。(パタリロ?!)そして、マザー・グースの唄になぞらえるように次々と殺人事件が。被害者はみなある数学者と関わりのある人々だった。僧正を名乗る人物からの犯行声明らしき手紙が届き、捜査は難航する。

もしかしたらむかーし、推理物を読み始めた小学生の頃に読んだのかもしれない。目星を付けた登場人物が犯人だったし、犯人のように描かれている登場人物が犯人ではない証拠、というのにも見当がついた。

こういう本格推理の主人公の探偵は大体冷戦沈着で物に動じることがないが、ファイロ・ヴァンスも「生まれつき冷静で、いつもは感情をつとめて抑制するように心がけて」いる。有力な手がかりとなる証言が語られている時、ヴァンスは「ゆっくりと思索するようなかっこうで、ポケットに手をやり、シガレット・ケースを探って」みたり、「ゆっくりとかがみこんで、あのいかにもごていねいなやり方でシガレットを灰皿に押しつぶしていた」りする。それが「興奮を抑えている証拠」なのだ。どうしてそんなに落ち着いていられるのですか。

数学者と関わりのある人々が殺されるので、数学の公式や物理学についての理論などが多数出てくるし、ヴァンスが数学や物理学について語る場面もある。リーマンとクリストフェルのテンソルという、球面ホマロイダル空間のガウス曲率の決定に使う空間の無限性を表現した公式が事件の鍵となっている。この説明、本からの抜き書きだが、意味がまったくわからない。

そういうわけで「僧正殺人事件」は単なる殺人事件解明の物語ではなく、読者の知的好奇心を掻き立てる教養小説でもある。ヴァン・ダインは最初覆面作家としてファイロ・ヴァンスシリーズを書いていたので、これほど教養のある作品を書くのは誰なのか、と当時作者を探し出す騒動もあったとのこと。

殺人事件の解明を軸に知的好奇心を掻き立てる教養小説といったら、個人的にはウンベルト・エーコの「薔薇の名前」が最高傑作だと思う。

僧正殺人事件は1929年の作品。

2012-09-27

ちはやふる [末次由紀著]


競技カルタの世界を、高校のカルタ部を通して描いている。1巻から17巻まで一気読みした。

主人公の千早は、小学校6年の時に福井からの転校生、新(あらた)を通して競技カルタを知る。幼なじみの太一も加わって3人でカルタの世界に踏み入るが、小学校卒業とともに新は福井に帰り、太一は私立の進学校へ進み、3人は別れ別れになってしまう。しかし、高校で千早と太一が再会。二人はカルタ部を創設し、仲間を増やして再び競技カルタの世界へ。そして新との再会も果たし、千早はクイーンへの道を歩き出す。

競技カルタの世界が圧倒的な迫力で迫ってくる。主人公は千早という、周囲をヤケドさせてしまうほどのカルタへの情熱を持つ天然キャラの美少女。高校選手権だけでなく、一般の大会にもどんどん参加するので、ライバルとなる登場人物が次から次へと現れる。「ちはやふる」の迫力は、脇役のライバルの、ここに至るまでの人生やカルタとのかかわりが、本筋から脱線しない程度に丁寧に描かれているからだと思う。色んな人たちの情熱がページからめらめらと立ち昇ってくるようだ。

千早をめぐる新と太一の対立というか対比は少女漫画の世界。暗めで天才肌の新と、明るいが実は努力家の太一。女性の読者なら、どっちがいいかなー、と心迷うのだけれど、肝心の千早は、天然キャラ爆発で全然心が揺れ動いていない。

天然キャラほど、本人が無意識のうちに人生の条件に恵まれて、どんどん上り詰めて行く、という流れは、ある程度人生経験が積もった読者には、イラっ、とするところはある。でも挫折したり、迷惑かけたり、自分を見つめたり、思いっきり生きている人を見ていると、こちらにも少し元気が湧いてくる感じがする。

2012-09-22

旅する胃袋 [篠藤ゆり著]


この本を読んで旅心を刺激されタイへ行ってきた、という知り合いの話を聞き、読むことに。

篠藤さんが旅したバンコク、インド、中国東北地方、カラコルム・ハイウェイ、チベット、ラダック、タイの山岳民族の村、ブラジルアマゾンの河港の町、ミャンマー、モロッコでの出来事がその地での食事を中心に語られている。

篠藤さんほど大胆かつディープではないが、私も旅をしてきた。冒頭のバンコクの市場の描写に1997年に初めてバンコクを訪れた時のことがまざまざと思い出された。バックパッカーの旅行記は読まないのだけれど、この本にはとても共感した。

「この地に生まれ、死ぬまでこの地を離れることなく生きていく人たちとは、住む世界が違う。もちろんかく言う私も、しょせん呑気に旅ができる身分の人間である。せめてそのことを、しっかり肝に銘じておきたいと、私は思う」

特に旅心を誘われたのは、カラコルム・ハイウェイの旅。高校時代、K2から戻ったばかりの広島先生の地理の授業で、恐らくカラコルム・ハイウェイの写真をスライド上映してくれた。当時は欧米文化に憧れる年頃だったので、なんて地味でイナカくさい所だ、と思いつつ観ていた。今はものすごく行ってみたい場所だ。

ラジャスタンの道中記には、読んでいて心に沁みいるものがあり所々で涙ぐんでしまった。たかろうとする人、毅然と自分の責務を果たそうとする人、良心に従って生きている人。同郷の人に会いたいという気持ち。

なぜ旅をするのか。今の自分の居場所から逃れたいから、とか、知的好奇心を満たしたいからとかいうのもあるが、それを超えて、旅には人をひきつけるものがあると思う。

見たことのない、想像を超えた自然そのままの景観に身を置くこと。人の好意に触れ、異国の人たちと心を通わせること。思いがけないすべての出来事が深く心に刻まれる経験をしたいのだ。使い古された平たい言葉で言えば、感動したい。旅の記憶と感動は、お棺の中まで持っていける唯一のものだと思っている。

2012-09-19

黄色い部屋はいかに改装されたか? [都筑道夫著]


三谷幸喜氏がエッセイの中で、「黄色い部屋はいかに改装されたか?増補版」を買って読んだ、というのを読み、読んでみることに。

ミステリ誌の編集者であり推理小説作家である著者が、本格推理小説のあり方について考察している。なるほど、と得心しながら読んだ。たとえば、ミステリの三原則は、1. 発端の怪奇性。2. 中段のサスペンス。3. 解決の意外な合理性であるが、読者が一番求めているのは、論理的な解明なのである、と。

論理的な解明、というのはボオが、オーギュスト・デュパンが主人公の作品の中でさかんに言っていた。論理的な筋立ての小説を書く、というのが当時はチャレンジだったのか。たしかに、解明が論理的でないとものすごい不満が残る。

本格推理小説のテーマとして、ダイイング・メッセージ、ミスディレクション、トリックを挙げている。トリックへのツッコミがはげしい。それが本当にうまく作動するのは偶然に左右されるじゃないか、とか、自分への嫌疑を逸らすためにそこまで面倒くさいことをするだろうか、とか。

ポオが始めた本格推理はネタが出尽くした感があるから、パターンを踏襲しつつ自分なりのストーリー展開をしてもいい、つまり"盗作"も可能だ、と言っている。むしろそうでないと陳腐な作品になってしまう。ポール・アルテはパターンを踏襲しているかに見せてもう1回捻って読者をあっと驚かせてくれる。

取り上げている作家は、ポオ、カー、クィーン、ヴァン・ダイン、クリスティ、ドイル、クロフツ。日本の作家では横溝正史が挙げられていて「獄門島」「本陣殺人事件」の評価が高い。私が一番好きな「悪魔の手鞠唄」はタイトルは挙げられているが力及ばず、とのこと。

こうして都筑氏の評論というか考察を読んでいると、東野圭吾のすごさをあらためて認識。都筑氏は東野圭吾作品をどのように評論しているのだろうか。

三谷氏も書いているけれど、色々古典物を読みたくなってきた。

ところでタイトルの「黄色い部屋」については全く触れられていない。

2012-09-13

ロスト・シンボル [ダン・ブラウン著]


アメリカ合衆国建国時、ワシントンDC建設に関わったフリーメイソンがDC市内のどこかに隠したと伝えられる"失われしことば"を巡るアドベンチャー。

ラングドン教授は、旧知のスミソニアン協会会長に突然呼び出され、ボストンからワシントンDCへやって来る。指示通りにアメリカ連邦議会議事堂へ赴くが、それは罠で、スミソニアン協会会長を拉致した敵役マラークに、世界征服の鍵となる"失われしことば"を見つけだすよう脅される。手がかりはフリーメイソンに伝わる謎かけ。ラングドンの謎解きに絡んで、フリーメイソンの儀式、歴史、象徴の意味、そして純粋知性科学についてが語られる。

グラハム・ハンコック、ロバート・ボーヴァル共著の「タリズマン」でもワシントンDCはフリーメイソンの思想に基づいて建設されたのだ、と言っているが、「ロスト・シンボル」もその事実(?)に基づいてストーリーが展開している。キーワードは、地下の秘密の場所、ワシントンDCのどこか、古の門、ピラミッド、刻まれたシンボロン。

フリーメイソンと並行するこの作品のもう一つのテーマは純粋知性科学。純粋知性科学とは、人々の思考に重力があり物質界に測定可能な影響を与えることができる、とする科学。そう聞くと超能力とか魔法とか、なにやら胡散臭いエセ科学という印象を受けるが、私自身は、やはり、と納得。私が傾倒している哲学は「心の活動は思考によって現実化する」と言っている。ロスト・シンボルでは、人間の中に神がある、と言っているが、それはまさに「神人冥合」のことなのでは。"神と人間は人の心に従ってきわめて微妙に結びつくようにできている"。

人が神足り得るならば、純粋知性科学の理論を応用すれば世界征服も夢ではない、という理屈になる。たしかに歴史上ある一つの考えが主流になり世界を席巻したことがあるが、それが世界征服につながったことはないのではないか。心の活動を現実化するには無念無想の境地に至ることが前提で、そこに至るのはほんの一握りの人々でしかない。多くの人は無念無想の境地について考えたことすらないではないか。

それに、"みんなちがって、みんないい"、が人間の原理なのではないかと思う。

ところで、この本の前に「イスラームから見た世界史」を読んだので、フリーメイソンはやはりキリスト教をベースにしている、という強い印象を受けた。古代エジプト宗教とキリスト教の融合か。フリーメイソンは様々な宗教を包含するといっているが、伝承の多くはキリスト教の伝承に基づいている。話が逸れてしまうけれど、キリスト教・ユダヤ教の伝承のアブラハム、ヤコブ、ソロモン、イエスの出来事って一体何世紀の出来事なのだろうか。その辺りがいつもあいまいで、漠然としていて、異次元世界な感じがする。このあいまいさが神聖さを高めているのだろうが.....。

2012-09-05

カスタードのお菓子 [葛西麗子著]


カスタードの作り方を段階ごとに丁寧に説明している。ひと口にカスタードといっても、奥が深いのですね。

カスタードの作り方は比較的簡単だけれど、色々なお菓子との組み合わせで幅が広がることがわかった。カスタードパイなんて、手元に特別な材料がない時に手軽に作れそうだ。

2012-09-04

絶対失敗しないパイとタルト [石橋かおり著]


パイ生地とタルト生地の作り方を段階ごとに写真で説明しているのがわかりやすい。料理教室に行ってコツを教えてもらったような気になる。

パイ生地は冷凍品や焼成品を買ってきて作る方が簡単ではあるけれど、自分で作る方が安心だし、思い立った時にすぐに作れてよいと思う。が、面倒くさい、と思われてしまうのもたしか。

2012-08-22

メリダとおそろしの森 [マーク・アンドリュース監督]


古のスコットランドを舞台にした物語。

小国が分立するスコットランド。王女メリダがお年頃になり、母である后が隣国の王子たちを集めて婿選びを催す。が、弓に秀でているメリダは相手が誰にせよ結婚して家庭に収まる気がない。森に逃げたメリダは、魔法使いに母が考えを変えるように魔術をかけてもらう。ところがその魔法は.....。

意外にもこの映画は母娘の物語だった。監督と脚本に女性が関わっており、この映画はお伽話というよりも、女性の生き方についてのメッセージのようだ。結婚より自立した人生、そしてそれを母親に理解してもらうことの難しさ。

笑えるシーンやスリリングなシーンもあって、気楽に楽しめる。イケメンキャラが登場したらもっと楽しめたと思うが、イケメンキャラがいては意図するメッセージが観客に届かない、と監督と脚本家は判断したのかもしれない。

ピクサーの佳品。

この映画も3Dで観たが、3Dにする意味があるのか。映画は、写真の事物や人間が動く、という衝撃から始まって、音、色、と観客に驚きを提供して来たけれど、立体画像という次の段階になるにはまだ技術が確立されていないのではないか、と思う。

テルマエ・ロマエ [武内英樹監督]


おかしくっておもしろい!このおかしさは、阿部寛の表情と心の声のナレーションに負うところが大きいと思う。

ローマ時代の風呂設計者が風呂で事故に遭うとなぜか現代日本のいろいろな風呂へタイムスリップ。日本の風呂の特徴をローマに持ち帰って風呂設計者としての名声を得ていく。

皇帝ハドリアヌス、その後継者のケイオニウス、皇帝の側近アントニウスの権力争いというローマ史と風呂文化の発展を絶妙に絡めながらストーリーが展開していく。日本におけるフロ・トイレ文化のおかしさも再発見。日本のトイレの素敵なおかしさは、映画「トイレット」でも描かれている。

映画の後半、日本側登場人物が全員古代ローマにタイムスリップしてしまい、どのように話のオチをつけるのかすこしヒヤヒヤしたが、うまくオチて明るい気分で映画館を出ることができた。

風呂の発明は、人間の発明の中でも特筆すべきものですね。

2012-08-15

世界推理小説大系 1マリー・ロジェの秘密 [ポー著] 黄色い部屋の秘密 [ルルー著]


三谷幸喜氏がエッセイで都築道夫著の「黄色い部屋はいかに改装されたか」について書いていたのを読み、そういえば「黄色い部屋の謎」をまだ読んだことがない、と読むことに。

この巻に含まれているのは:

エドガー・アラン・ポー著
□マリー・ロジェの秘密
実際にはニューヨークで起こった美女殺人事件をパリに置き換えて、ノンフィクションとして語っている、というスタイルのミステリ。一度行方をくらましたことがある宝石店の美人店員が、再び行方不明となり、とうとう遺体となって発見される。探偵が、新聞記事から失踪状況を正確に描き出し、犯人を特定していく。

新聞記事の扇動的表現と記述の矛盾を突いて真相解明しており、作品のテーマは新聞批判かもしれない。

□盗まれた手紙
フランス政界を揺るがす醜聞を引き起こしかねない手紙が盗まれる。警視総監は持ち去った犯人は政界有力者の一人と特定しているものの、家宅捜査でも手紙は見つからず、総監の友人である探偵オーギュスト・デュパンが謎を解く。

あまりにも有名な作品。初めてちゃんと読んだ。すでにネタバレ状態で読んだわけだけれど、手紙はただ状差しに入っていたわけではなかった。

□犯人はお前だ
フランスの田舎で町の有力者が行方不明となり、村人総出で捜索が行われる。

ミステリファンならすぐに、こいつが怪しい、と犯人がわかるのだけれど、ポーは犯人を追いつめて犯行を告白させるのに、ちょっとしたトリックを使っている。

□モルグ街の殺人
本格推理黎明期の名作。初めてちゃんと読んだ。

不可解で凄惨な殺人現場、まちまちな証言、一見無関係と思える方面から手がかりを得る探偵。そして、読者がエぇーーっと驚く真相。本格推理の王道条件全てがここから始まったのか。

探偵オーギュスト・デュパンと語り手の出会いが語られているのだけれど、オーギュスト・デュパンの厭世的な生活ぶりはシャーロック・ホームズと似ている印象。そのことは周知の事実ですか?名前はルパンに似ている。

「モルグ街…」は1841年発表。明治維新の前です。

□黄金虫
「モルグ街…」に並ぶミステリの名作。ずっと「黒猫」のような怪奇小説なのかと思っていたが、最後まで読んだら全然違った。実際は暗号小説。後半、暗号を解読していく過程がスリリングだ。しかし、骸骨の形をした金色の虫をジャングルで見つける出だしはちょっと怪奇小説風。

暗号が小説のテーマというのは、当時は衝撃的だったろうと思う。


ルルー著
□黄色い部屋の秘密 
密室で令嬢が襲われて重傷を負う。犯人はどこから侵入し、どこから逃走したのか。警視庁の有名警部と少年新聞記者が推理を競い合う。

ミステリ史には必ず「黄色い部屋…」の名が上がるが、ミステリファンはこの作品のどこに魅了されているのか。まず、「黄色い部屋…」は「モルグ街の殺人」のネタばらしをしている。密室トリックは新奇ではあるし、終盤に意外な展開が用意されていて名作ミステリとしての条件は揃えているが、作者は、物語進行が一段落すると大仰な修飾語で読者に対して今後の展開を期待させる文章を連ねる。その割に人間ドラマは希薄。

解説で中島河太郎氏も「その演出がフランス流の派手で、子供っぽく見えるのが印象的である」「ルルーは処女作において最高水準を示した。その名声は骨格のユニークさに存したのだが、彼は肉付けにだけ専念して通俗に堕し、短所を露骨にさらけ出してしまった」と述べている。

有名で人気のあるフランスミステリ作品にアルセーヌ・ルパンシリーズがある。ルパンは1906年に発表、「黄色い部屋…」は1907年発表。


以上の作品が収録されているこの本は、1973年(昭和48年)発行の推理小説全集の第1回配本。監修に松本清張、横溝正史、中島河太郎、3氏の名前がある。

2012-08-14

ダークナイト ライジング [クリストファー・ノーラン監督]


面白い!!!アクション、人間ドラマ、社会ドラマ、ミステリ、特撮、どの要素も充実している。2D上映。十分堪能です。

前作から8年経過しているという設定で、ブルース・ウェインは引きこもり生活。ゴッサムシティは平和で安全な町となっていたが、そこに異形のベイン率いるテロ集団がゴッサムシティを乗っ取り、町の人々はバットマンの再来を待ち望むようになる。

アン・ハサウェイがセクシーでコミカルでカッコいい。異形の悪役ベインをトム・ハーディが演じているが、終盤にちらりと彼のハンサム顔を見ることができてよかった。

バットマン・ビギンズとダーク・ナイトのエピソードが全てストーリー展開の鍵となっていて、3作まとめて一つの作品なのかもしれない。

ジョセフ・ゴードンレビットが新キャラとして登場。ラストで彼の役の本名が明かされてニヤリとしてしまう。彼もすごくよい。若手俳優では、彼とシャイア・ラブーフの二人に注目している。

クリストファー・ノーランのバットマンシリーズはこれで完結のようなのだが、続編を期待させる終わり方がこの映画を観終わった後に少し高揚感を残してくれる。

2012年7月、コロラド州オーロラでThe Dark Kngith Risesの公開初日に、映画館で銃乱射事件が起きた。映画を観ている時ふとそのことを思いだし、犠牲者の方々のご冥福を祈った。

アベンジャーズ [ジョス・ウェドン監督]


スカっとストレス解消。

それぞれがヒーロー映画の主人公であるアイアンマン、キャプテン・アメリカ、ハルク、マイティ・ソーの4人に、ブラック・ウィドーとホークアイが加わった6人が、神話世界(?)からの侵略に立ち向かう話。

ヒーローばかりが集まっているからどの役もカッコいい。全員がカッコいいし、全員がカッコつけてる。が、さすがに実力のある俳優陣ばかりなのでカッコつけすぎてダサいってことがない。カッコつけるのもなかなか難しいものです。特にスカーレット・ヨハンソンが演じるブラック・ウィドーがカッコよすぎる。個人的にはアイアンマンのペッパー・ポッツに憧れてます。

すべてのヒーロー映画を観てからアベンジャーズを観るともっと面白いと思う。特にマイティ・ソーはチェックしておくべきでした。

クレジットロール終了後にちょっとした楽屋落ちシーンがある。

これも3D。2Dにない3Dの利点ってあるのかな。

アメイジング・スパイダーマン [マーク・ウェブ監督]


青春アクションアドベンチャー。観た後はスカッ!と爽やかな気分に。

監督も公開前のインタビュー記事の中で、この映画はヒーロー物というより青春映画なんだ、と述べていたが、たしかに学園でのシーンが多い。

ピーター・パーカーがなぜ伯父夫婦のもとで育ったかの背景が語られているし、敵役のコナーズ博士の葛藤も描かれていて、深い人間ドラマになっているものの、サム・ライミ&トビー・マグワイア版より明るい感じ。

ストーリー展開に違和感を感じたのは、大手バイオ企業が高校生をインターンに採用していることとか、高校生インターンが研究の中枢部に入り込めることなど。

それでも素晴らしい俳優陣ばかりが出演していてドラマにどんどん引き込まれてしまう。マーチン・シーンとサリー・フィールドの夫婦が素敵、アンドリュー・ガーフィールドがオタクっぽい高校生とスーパーヒーローを違和感なく演じ分けているし、リース・イーヴァンズは敵役コナーズ博士の恐さと弱さとアブなさを観客に印象づけている。

3D上映なのでスパイダーマンの目線で移動するアクションシーンはそれなりの臨場感があるが、ドラマの部分は2Dと変わりない感じ。

2012-08-13

奇跡のスパイスターメリック料理レシピ集 [ロイチョウドゥーリ・ジョイ著]


ターメリックを使った南インドの地方料理のレシピ集。ターメリックの効用やインドでのターメリックの位置づけについての解説も。

この本によると、ターメリックには、整腸、免疫力増加、肝臓機能強化、脂肪分解、細胞の新陳代謝促進など、数多くの効用があるとのこと。ショウガのような個性的な匂いもないし、唐辛子のように強烈な辛味もないので、どんな料理にも混ぜて使って構わないようだ。パンやクッキーのレシピも載っている。

インドでは、塩とターメリックを合わせたものを鶏肉、魚の下ごしらえに使っているそう。塩で引き締めてターメリックで臭みを取って、素材のおいしさを引き出すようだ。

以前買ったターメリックが余っているので、さっそく肉じゃがとイワシの煮付けに使ってみた。それぞれにティースプーンに半分ほど入れたのだけれど、すっかり黄色くなってしまった。醤油の黒の方がターメリックの黄色に勝っているけれど、じゃがいもは黄色くなり、イワシの表面の脂も黄色くなり、鍋も黄色くなってしまった。鍋についた黄色は洗ったら落ちた。

確かに、ターメリックを使っても風味や味に劇的な変化はなかった。ターメリックがそんなに体に良いのなら、これからもちょっとずつ調味料に加えていってみようと思う。ただし、醤油が主体の味付けの時に。

次は塩とターメリックを合わせて、肉の下ごしらえに使ってみるつもり。唐揚げとか豚肉のソテーとか。

2012-08-06

イモ革命はじまる [NPR]


Original Title: Extreme Makeover, Potato Edition

特定の栄養素を含んだ様々な色と形の新種のジャガイモを、健康促進のために売り出そうという話。

米農務省のある遺伝研究者は、害虫や病気に強いジャガイモを開発すべくジャガイモの遺伝子の研究をしていたが、ある日ジャガイモ畑でオレンジ色のジャガイモを見つけた。

野菜の色はその植物が特定の栄養素を含んでいることを示す。たとえばオレンジならカロチンといった具合に。数年後この遺伝研究者は赤いジャガイモに出くわす。別の研究者によって、赤いジャガイモはアントシアニンという予防効果のある成分を含んでいることがわかった。

色付きのジャガイモに出会ったことで、農務省の研究者は、南米産の様々な色のジャガイモを北米で生産・流通することで国民に特定の栄養素を供給するというプロジェクトを始めることにした。この研究者はジャガイモ原産地であるペルーで働いていた時に様々な種類のジャガイモを見ていた。長いの、細いの、青いの、黄色いの。

農家の協力を得ることができて、新種のジャガイモの生産は軌道にのったが、スーパーマーケットでの販売は今ひとつのよう。スーパーはなかなか新種のジャガイモを受け入れてくれない。

そこに協力な助っ人が。全米ジャガイモ評議会がこのプロジェクトの推進に関わることになり、ワシントンDCの人気レストランで旧来種と新種ジャガイモを使ったメニューでジャガイモ普及活動を始めた。

プロジェクトを始めた研究者の夢は、将来スーパーマーケットに色んな種類が並ぶジャガイモコーナーができること。

イギリスでは十年位前から食料品店で多種類のジャガイモが売られていて、今ジャガイモが熱いらしい。

庶民の食べ物ジャガイモを通じて栄養素を供給するという考え、まさに薬膳ですね。

2012-08-04

週末の針仕事-大橋利枝子の手芸ノート- [大橋利枝子著]


再び大橋さんの著書を。

前に読んだ2冊に比べると、もっとずっと作品集という感じ。著者の手芸素材のコレクションの紹介も掲載されている。布地やテープなど。

「縫ったり、編んだり」にもキャミソールがあったのだけれど、この本にも違ったスタイルのキャミソールが掲載されている。本当にいつもいろいろ考えているのだなぁ、とあらためて感銘を受けた。使い古しのシーツを使って作る、という発想に感心。ナイティにするなら柔らかくなった生地の方が寝やすい。布地を徹底利用で、エコでもある。

それと、水玉の生地をスモック刺繍して小花模様を作る、という発想にも驚かされた。スモックは古くさいと思っていたけれど、再発見。温故知新だ。 とにかく、これから手を動かし続けていこう、と思う。

2012-07-28

縫ったり、編んだり。[大橋利枝子著]


「手芸の本-裁縫・編み物・刺繍-」で大橋さんの手芸に対する態度に感銘を受けたので、他の著書も読んでみることに。

「手芸の本」より、作品が多く掲載されていて、作り方も懇切丁寧に載っている。作品は、直線断ちのワンピースとかの大物からがま口のような小物まで。手芸初心者でもきれいな仕上がりにするためにどうしたらいいか、という著者の考え方も書かれていて、内容が深い感じ。著者の考え方にも共感。

キャミソールを作ってみようと思う。

2012-07-25

イスラームから見た「世界史」[タミム・アンサーリー著]


深く、面白い!!!視点を転換させられた。

イスラム世界を中心に据えて世界史を語っている。この本を読んで、これまで世界史の中で漠然と知っていたことの背景がよくわかった。例えば、バビロン捕囚、イスファハーンという都市の成り立ち、ヨーロッパの知識人がアラブを通してギリシア哲学を知ったこと、シルクロードにイスラム教が広がったこと、マルティン・ルターの宗教改革の意義、シーア派、ジハード、オイルマネー、911に至るアラブ社会のひずみ。

「銃・病原菌・鉄」を読んで、人間の歴史についての視点が大きく変化したのだけれど、この本はさらに視点を大きく転換してくれた。人類の文明発祥の地がその後どうなっていったのか、という、ある意味押さえておくべき歴史であると思う。

イスラムといえば女性隔離が特徴として挙げられるが、この本はイスラム世界でなぜ女性が被保護者として社会から隔離されてしまったかの経緯についても提示している。

著者は、イスラム初期には女性も戦争を含む社会活動に積極的に参加し、為政者も行政に女性を採用していたが、第2代カリフのウマルが「性的欲望の破壊的な威力を弱めるために−略−男女の役割を規定し、男女を隔離するという手段をとった」(p.119)ことで、女性が社会活動から遠ざけられてしまった、と述べている。"性的欲望の破壊的な威力"って。砂漠には他に楽しみがないとはいえ。

女性隔離は、その後ビザンツ、ササン朝ペルシアの慣行を真似ることで、ますます確固たる社会ルールとなったよう。ビザンツとササン朝ペルシアでは「上流階級の女性はその地位の高さの証として深窓に隔離されていた」(p.225)。

第2代カリフのウマルはまた、クルアーンを拡大解釈して飲酒も禁止した。

意外だと思ったことは、11世紀の十字軍の時代、イスラム圏ではジハードが死語と化していたこと。ムスリムは、十字軍が攻撃してくるのは自分たちがイスラム教徒だからとは思っていなかった。

攻撃といえば、モンゴル襲来でイスラム圏が壊滅寸前に追い込まれたことも知った。日本にもモンゴルは元寇としてやって来たが、イスラム圏では文化が変わってしまうほどの衝撃であった。

「銃・病原菌・鉄」を読んだ時、日本の明治維新がどれほどの幸運な巡り合わせで興り、日本という国をうまい具合に現代史の潮流にのせたかがわかったが、この本を読んでもう一度、明治維新の奇特さがわかった。以前読んだ本に、エジプトとトルコでも日本の明治維新のような運動が起きたが、うまくいかなかった、と書かれていた。この本でエジプトとトルコで改革運動が挫折した背景をよく知ることができた。エジプトとトルコのみならず、18世紀にはイスラム圏全体で改革運動が興っていたのだが、どれも中東におけるムスリムの生活を"より良く"するには至っていない。

読んでいて色々視点を転換することができたのだけれど、そのひとつは中世ヨーロッパについての記述で、個人的に興味を持っているバルカンについて理解する手がかりを得たように思う。バルカンについてはほんのちょっぴりしか触れられていないが、キリスト教徒とイスラム教徒が長く共存していたこと、バルカンがヨーロッパ内で立ち遅れてしまっていることの背景について、今まで読んだバルカン関連の本よりもずっと実感をもってわかってきた感じがする。

一番はっとさせられたのは、「つい忘れてしまいがちだが、世界を国家の集合体に組織するという動きが始まってから、まだ一世紀も経っていないのだ」(p.576)ということ。

そして、世界の歴史とは「きわめて重大な一連の出来事だけで構成されている」(p.19)という主張に強くうなずいた。

著者はイスラム社会で生まれ育ったとはいえ、本当によく調べて書いている。しかも中立の立場を貫いている。個人的に、今年のベストワンです。

2012-07-11

手芸の本-裁縫・編み物・刺繍- [大橋利枝子著]


スタイリストであり手芸家である著者の、手芸に対する思い、お気に入り、気を付けていること、コツなどがコレクションの写真とともに綴られている。とても簡単な小物の作り方も掲載。

お気に入りの手芸関連店のリストもある。東京中心だけれど。

本を見て作ってうまくできなくてもあきらめずに作り続けましょう、ということが書かれている。手芸の先生たちはたくさん練習して、何十年とやっている技術があるから、初めて作って本の作品と同じようにできなくても当たり前、ということ。そのことは自分も思っていたので、著者に共感した。

それから、チクチク針を動かしていると気持ちが落ち着いてくること、とか、ミシンがなくても手縫いで作ればいい、とか、他にも共感することが多かった。

シンプルな作りの本だけれど、著者が手芸を通じて会得したコツや秘訣や考え方を惜しげなく披露しており、これからの手芸生活の指針になるようなことが多い。

著者の他の本も読んでみようと思う。

2012-05-16

Tinker Tailor Soldier Spy (裏切りのサーカス) [トーマス・アルフレッドソン監督]

入り組んだ人間関係とプロットをよく2時間にまとめたと思う。ジョン・ル・カレの非情な世界がスタイリッシュな映像で表現されていて、スマイリー三部作ファンとして、満足の行く出来栄え。

「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」が、コリン・ファースとゲイリー・オールドマンをキャスティングして映画化されると聞いた時、コリン・ファースがスマイリーを演じ、ゲイリー・オールドマンがヘイドンだと思った。コリン・ファースは「英国王のスピーチ」で隆とした国王を演じたけれど人間としての弱さも表現していた。演技派の彼ならスマイリーの気弱な感じが出せそうだ。金髪のゲイリー・オールドマンが冷たい色男を演じるのもアリ、だと思った。コリン・ファースの体型の方がゲイリー・オールドマンより丸いじゃないですか。

実際の配役は逆だった。

原作を読んだのは何年も前にだったが、原作を読んでいたので何とかストーリーに付いていくことができた。ピーター・ギラムが資料室からフォルダを持ち出すシーンは、原作でもハラハラドキドキしたけれど映画でもヒヤヒヤさせられた。原作では、地味な事務仕事、無味乾燥な書類の束から手がかりを拾いだすところに意外な面白さがあるのだけれど、映画ではそのあたりの表現はどうしても難しかったのか、男たちの駆け引きとノスタルジックな60年代風景をカッコ良く映し出すことで観客を引き込んでいる。

アン・スマイリーはやはりおぼろげな存在として描かれていた。誰が彼女を演じているのかもわからないように映されている。

原作にはない同性愛的描写が多かったように思う。ピーター・ギラムが男性と同棲していたり、ビル・ヘイドンとジム・プリドーの関係とか。これは実際の事件の中心人物キム・フィルビーが同性愛者だったことを反映させているのか。

この映画で話題のトム・ハーディを初めてまともに観た。キアヌ・リーブス似のイケメンですね。彼が演じたリッキー・ターとジェリー・ウェスタビーを混同していた。スマイリー三部作の第2作「スクール・ボーイ閣下」の準主人公ジェリー・ウェスタビーがリッキー・ターの役回りだと思っていた。原作をあたったらちゃんとリッキーとジェリーは別人物でそれぞれ登場していた。映画の配役を見たら、ジェリ・ウェスタビーもちゃんと登場していた。それでも、トム・ハーディはジェリー・ウェスタビーのイメージに近い。

「裏切りのサーカス」という邦題にはどうしてもなじめないが、映画は大ヒット長期上映中。「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」の続編「スクール・ボーイ閣下」も映画化されるのでしょう。もっと入り組んだプロットと人間関係、広範囲な舞台がどのようにまとめられるのだろうか。個人的に「スクール・ボーイ閣下」にはとても深い人生の思い入れがある。


2012-05-12

Sushi、スシ、すし、寿司特集 [GOOD FOOD]


寿司関連の話題を集めた回。それほどみんなスシが好きなのですね。

□カリフォルニア・ロール以前のスシ
Original Title: Sushi before the California Roll

スシの歴史についての本「スシ物語」(The Story of Sushi: An Unlikely Saga of Raw Fish and Rice)を著わした著者がゲスト。スシの起源から現代のスシ文化を語っている。

スシの起源は、魚を酢っぱい米で発酵させた物で、スシという言葉は中国語の酸っぱいに由来する、と言っている。発祥地は東南アジアではないかと思われ、最初は川魚で作られていたのだろう。16世紀頃に日本で発酵時間を短くしてケーキのように切って食べる方法が考え出され、今のスシにつながった。

アメリカで人気のネタはマグロ、サーモン、ハマチ、ウナギ。最近は脂肪分があるとろけるような食感のネタに人気がある日本ではヒラメを食べているけれど、びっくりするくらいおいしい、と。アメリカスシの特徴は色々な種類の巻物を考え出したこと。

スシはもともとファストフードだったが、今は特別な時に食べる料理になっている。

よく寿司のことを調べている。


□アメリカ スシことはじめ


アメリカにスシがやってきたのは1950年。カナイ・ノリトシという日本人男性がロサンゼルスのリトルトーキョーでスシを始めた。この方は今もご健在。開店当時のお客は日本人駐在員ばかり。アメリカ人はもちろん日系人も来なかった。この頃、日本の金融機関がアメリカ駐在を増やしていたので、日本人ビジネスマンに連れられて来たアメリカ人たちがスシのおいしさに触れ、その後勇気のある人たちがやって来るようになり、スシはアメリカに広まっていった。

私的印象では、日本人の寿司職人のいる店は格式が高い感じがする。


□映画「すきやばし 次郎」
Original Title: Jiro Dreams of Sushi

ミシュランが認め、世界一のスシと外国人が憧れてやまない「すきやばし 次郎」のドキュメンタリー映画が製作された。その映画監督がゲスト。

映画では、店主次郎氏本人の人となり、二人の息子との関係、次郎でのスシ職人修行について描いている。次郎氏は客の前ではストイックで笑顔を見せないが、店が終わるとリラックスする。厨房での修行は、おしぼりの作り方から始まって、魚のさばき方を学び、10年働いて玉子寿司を握るのを許される。

次郎氏は現在86才。すべてにおいて最高水準を求めて、今も寿司を握っている。番組ホストが、でもすごくお高いじゃない、と言うと、監督は、次郎は真のスシ好きが行くところ、と。予約をすればシャリ、ネタ、タイミング、全てが完璧な状態で出てくる。

店は地下にあるのだが、それは天候に左右されずに気温、においが一定に保たれ、味に影響を与えないため、とのこと。私の行きつけの寿司屋も地下にある。次郎は無敵の世界最高水準かもしれないが、身近に頑張っているおいしい寿司屋をみつけて、なじみになって寿司を楽しむのも"真の寿司好き"のあり方ではありませんか。


□持続可能なスシネタの注文
Original Title: Ordering Seafood Guilt Free

スシが世界的に人気を集めるに従い、ネタの魚の乱獲が問題となっている。

ニューヨークでは、スシネタの持続可能性(Sustainability)を考えながら注文するようになっているとのこと。スシバーも持続可能度が高いネタの提供をウリにしている。例えば、青ヒレの魚より黄ヒレの魚の方が育つのが早いから環境に配慮したメニューになっている、とか。

そこでフィッシュ・フォン(Fish Phone)というサービスの紹介。魚の名前をテキストメッセージで送るとその魚についての説明と持続可能評価が返ってくる。

日本でもWWFがスシネタの持続可能性についてキャンペーンを始めたよう。

WWFジャパンさかなガイドはこちら

どの魚を食べれば環境に配慮しているのか、なんて調べながら食べるのも一つの"ネタ"かもしれないが、要するに残さず全部食べること、食べられる量だけ注文したり作ったりすることをまずしたらいいと思うのだが。

2012-05-02

アーティスト [ミシェル・アザナヴィシウス監督]


2012年アカデミー賞作品賞受賞作品。

1920年代末から1930年代にかけて、無声映画からトーキーに移り変わる時代のハリウッドを描いている。

ストーリーは、無声映画の人気俳優がトーキー映画の登場で落ち目になるが、飼い犬と彼が目をかけた女優によって復活を果たす、というもの。とてもシンプルな筋立ての上に"ほぼ"無声映画。台詞はときどき字幕で出てくるだけ。なのだけれど、俳優と犬の演技と演出で観客に様々な感情をもたせてくれる。

無声映画からトーキーへと最新技術で変化する時代をまさに無声と音声で表わしているのが斬新。主演俳優はフランス人だけれど、その他の主要キャラはアメリカ人が演じているから、主演俳優の訛りのある英語を隠すという意味もあるのかもしれない。それでも、製作と監督はフランス人。映画発祥の地、ハリウッドへのレスペクトなくしてこのストーリーにはならなかっただろう。

ヒッチコック映画もストーリーは意外にシンプルだけれど、映画にとってストーリーは複雑にひねった情報過多である必要はないのではないか。映画は、映像と演技と演出を手段にして表現するものだ、ということを再認識させられた。

i-Tunesで予告編を見た時から、名作になるに違いない、と思っていた。特別予告編で、ペピー・ミラーを演じたベレニス・ベジョがダンスシーンのことについてこう言っている。たった2分のシーンのために5ヶ月もレッスンを続けてきたなんて、これぞ映画って感じ、と。

2012-04-28

ケンタッキーダービーでケンタッキーバーボンを [GOOD FOOD]


Original Title: What to Drink at the Kentucky Derby

ケンタッキー・ダービーが5月に130周年を迎えるにあたってケンタッキー・バーボンの話。

ケンタッキーで作られるバーボンは、つまりトウモロコシで作るウィスキーなわけだけれど、なぜバーボンと呼ぶのかというと、1790年代からブルボン家がバーボン郡を作りそこで製造したことに由来するとのこと。1960年代の「洋酒天国」で、バーボンをブルボンと呼んでいる。いつから"ブル"が"バー"に変わったのだろうか。

ところで、バーボン醸造会社でテイスティングをしている女性がバーボン・ウーマンというクラブを創った。バーボンは男性の飲み物というイメージが強いが、女性の愛好家も増えているし、バーボンに興味を持つ女性も増えているのを感じて、気軽にバーボンを楽しめるようにと創設した。集まってテイスティングをしながらお喋りを楽しんでいるよう。

ケンタッキーでバーボンといえば、ケンタッキー・ダービーとミントジュレップが有名。ミントジュレップはミントの葉、砂糖、バーボン、クラッシュアイスで作るカクテル。ダービー観戦に欠かせない飲み物。

ミントジュレップのレシピについては、ケンタッキー人それぞれに主張があるらしいのだが、ここで紹介されているのは、ミントシロップを使うレシピ。

ミントシロップの作り方。同量のグラニュー糖と水を火にかけ、砂糖が溶けたところでミントの葉をむしって入れる。エキスが出る位浸しておいたらミントの葉を取り除き3日位冷蔵庫で寝かせる。

ミントジュレップを作る時は、金属カップをよく冷やしておき、ミントシロップをティースプーン2杯にバーボン、クラッシュアイスを加えて作る。小さなカップでクイっと飲むのが粋な飲み方。何杯飲んでもかまわない。

ミントシロップを作ってみた。ミントの種類が違うのか、葉を浸しすぎたのか、苦い風味のシロップが出来てしまった。

2012-04-21

ニューヨーク公立図書館のメニューコレクション [GOOD FOOD]


Original Title: The New York Public Library's Menu Collection

ニューヨーク公立図書館に4万点以上のレストランメニューのコレクションがある話。オンラインでも閲覧することができる。

このメニューコレクションは、ブトーさんが集めたコレクションから始まった。ブトーさんは1900年頃から1920年までニューヨーク公立図書館でボランティアとして働いていた人。ボランティアといいながらも図書館内に自分の机を持ち、辞めるまでの間に2万5千点ものメニューを集めた。

メニューの収集はニューヨーク中心に始まったが、世界各地のレストランから送ってもらった時期もあった。しかし保管場所が限られているため、今はまたニューヨーク中心のコレクションに戻ったとのこと。

一番古いメニューは1843年の女性クラブのもの。明治維新より以前の時代だ。今も収集は続いており、コレクションが膨大な数になったので、スキャンしてデーターベース化した。図書館のホームページでコレクションを閲覧することができる。実物が見たい場合は、ホームページでメニューを特定してから図書館に予約をとればよい。

写真は1962年の日本食レストランのメニューの表紙。スキヤキ3ドル、バタ焼き4.5ドルなどが掲載されている。他にヨセナベ、テイショクもある。

メニューを見ていると、同じ料理が年代によって呼び名が変わるのがわかるし、値段の変化もわかる。貴重な食の社会学的資料であるけれど、単に料理名をながめているだけでも楽しい。江戸時代の料理屋の品書きが残っていたらどんなにおもしろいだろう。鬼平の世界ですね。

ニューヨーク公立図書館のメニューコレクションはこちら

2012-04-20

治療島 [セバスチャン・フィツェック著]

ドイツのスリラー推理小説。

原因不明の病気にかかった娘を病院に連れて行った精神科医は、そこで娘を見失ってしまう。そして4年の歳月が流れ、なぜか精神病院に"入院"している精神科医は主治医に、娘の失踪から2年後にある島で遭遇した不思議な体験について語る。それは、娘の失踪について何かを知っているらしい美しい女性にまつわる不可解な出来事の連続だった。この女性は娘の失踪の真相を知っているのか。

統合失調症の女性の言動と、娘の失踪で精神的ダメージを受けている主人公の精神科医の妄想が入り乱れて、読んでいて非常に不安な気持ちになってくる。サスペンスフル。ホラー小説ではないのだけれど、読んでいてこんなにコワかったことはない。ウツがひどくなってしまった。

半分ほど読んだ時点で、オチの見当がついたのだけれど、作者がどう落とし込むのか気になって読み進んだ。最後まで読んで、ナルホド、うまくヒネりましたね、と納得。

最近、非英語圏ヨーロッパのミステリに注目作品が多い。「ミレニアム」しかり。しかしヨーロッパの作品はどことなくひやりとした印象がある。ところで、この作品は精神状態が不安定な人は避けた方がいいと思う。

2012-04-18

関西文学散歩 京都・近江 [野田宇太郎著]

日本文学に登場する、または文壇に縁の深い京都とその周辺の地を訪ね、元本の文学作品やその作家たちについて語っている。「文学散歩」というジャンルは野田宇太郎が作り上げた、と言われている。

京都関連の文学作品が無数に登場し、様々なエピソードが紹介されている。文学部の教科書といえる本だ。昭和36年2月発行で旧漢字で印刷されている。"学"が"學"になっているなど。

日本文学に詳しくないので国語の教科書に登場しない作家たちについて初めて知ることが多かった。ドナルド・キーン先生が、日本文学は世界に誇れるすばらしい芸術だ、というようなことを言っているけれど、この本を読んで日本文学の奥深さ、層の厚さを知った。

東三本木に文壇関係者が常宿としていた信楽という旅館があったというエピソードも興味深い。女将は当時の政界の有力者と親密な間柄だったという。それから長田幹彦の「祇園夜話」という小説について何度も言及しているので、そのうち読んでみようと思う。

各地を訪れ各作品、各作家についてとても丁寧に語っており、貴重な資料であると思う。がんがん読み進むという本ではない。というわけで、日本文学にもうしわけないのですが、読了せずに半分過ぎたあたりで読むのをやめてしまった。

2012-04-14

ケチャップの歴史 インドネシアからイギリス経由アメリカへ [GOOD FOOD]


Original Title: The History of Ketchup

ケチャップの歴史について著わした食研究家へのインタビュー。ケチャップは意外にも東西文化が融合したものだった。

現代人の食生活に欠かせない調味料の一つケチャップ。オムライスやハンバーガーといった"洋食"に主に使われているからなんとなくアメリカ起源だと思っていた。実はケチャップはインドネシアが起源。

もともとは大豆を主原料に作られる発酵調味料で、醤油のようなものだった。インドネシアにやってきたイギリス人が気に入って輸入していたのだが、かなり高価だったので自分たちで作ることに。しかし当時イギリスには大豆がなく、似た色と味を出すためにいろいろな材料で試した。要するに材料を発酵させて作れば何でもケチャップに成り得たので、牡蛎、クルミ、果物、ジャガイモ、魚、レバーなど、いろいろな材料でケチャップが作られるようになった。

「ケチャップ」という名前はフランス語から来ている。スパイスの入ったいろいろな材料を合わせたもの、という意味とのこと。その意味でウスターソースは一種のケチャップといえる。

ケチャップがトマトケチャップになったのは19世紀末のアメリカで。1870年頃トマトの価格が暴落。倒産寸前に追い込まれたトマト缶会社がトマトでケチャップをつくってみることにした。それまでのケチャップは発酵食品なので甘くなかったのを、一般受けするために砂糖を入れて甘くし、発酵を抑えるために酢も加えた。こうして現在のケチャップが誕生。

トマトケチャップは製造を始めたほんの数社が業界を独占。特にハインツは流通も押さえており、現在のアメリカではほぼ独占状態とのこと。

2012-04-07

鶏と卵の関係 [GOOD FOOD]


Original Title: Chicken and Egg 101

卵の基本情報について。

まず雄鶏と交尾しなくても雌鶏は24~36時間毎に卵を生む。ニワトリには決まった繁殖期はなく、一年中繁殖期にある。有精卵を28℃に保温し続けるとヒナが孵るが、冷蔵庫で保存しておけば決して卵が孵ることはない。

冬は産卵数が少なくなる。これは冬になってエサが少なくなるから、というより日照時間が短くなることと関係している。だから、養鶏場では鶏舎内をいつも明るくしている。

エサといえば、黄身の色はエサの影響を受けている。オレンジ色の濃い黄身になるか、レモンイエローになるかはエサの種類で決まるとのこと。

そして白卵と赤卵の違いは、雌鶏の羽根の色の違いで決まる。白いニワトリからは白い卵、赤いニワトリからは赤い卵が生まれる。アローカナという鶏は薄青い卵を生むがこれは例外。1500年代にアメリカに持ち込まれたアローカナの卵は、マーサ・スチュアートのお気に入りらしい。殻の色が違っても栄養は全く変わりなし、とのこと。

新しい卵ほど体に良いのだけれど、古い卵の方がゆで卵にした時、殻を剥きやすくなっている。殻と身の間に空気を取り入れているので殻を剥きやすい状態になっているから。

チェーンのコーヒーショップでモーニングについているゆで卵は殻がツルンと剥ける。古い卵だからなのか。

卵好きなので興味深かった。でも卵料理のレシピについてなかったのは残念。

2012-03-14

干し野菜のおいしいレシピ [本谷恵律子著]


野菜を干すことに興味を持ちはじめた矢先に見つけた本。最近、野菜や果物を干すのが流行っているのですか?

色んな野菜と果物の干し方と、干し野菜、干し果物を使ったレシピが載っている。ちょい干し、しっかり干し、と干し加減(?)の違いで外見や風味が異なることがわかるようになっているし、野菜や果物の種類によって適した干し加減があることを教えてくれている。

珍しいのはキュウリ。ちょい干ししたキュウリを炒める料理が載っていた。夏になったら試そう。それから、干しレンコン。生レンコンできんぴらを作るとレンコンが崩れてしまうのだけれど、干しレンコンは崩れず、もっちりした味わいになった。

韓国では葉物野菜を干して使うと聞いていたが、やってみると風味が増して、煮くずれせず、これから干し野菜の習慣がつきそうだ。

ヒューゴの不思議な発明 [マーティン・スコセッシ監督]


2012年アカデミー賞で作品賞を逃した作品。1930年代のパリの駅を舞台に、孤児のヒューゴとおもちゃ屋の主人で、実は有名な映画監督だった老人と、からくり人形をめぐる話。

老人は、1902年に「月世界旅行」を制作したメリエスという設定。映画のタイトルは「ヒューゴ」で、少年の話かと思いきや、映画創生期の人々の情熱と夢が主題になっている。

ヒューゴの敵役となる鉄道警察官をサーシャ・コーエンが演じている。風刺がキツすぎるブラックコメディ「ボラット」とか「ブルーノ」に主演した俳優。巨匠マーティン・スコセッシの前では少ーし毒が緩和されていたけれど、強烈な印象を与えている。

3D映画を初めて観た。画面に奥行きがあって臨場感があるけれど、字幕が二次元なので時々我に返る感じ。しかも、眼鏡で映画館へ行ったので、3D用メガネの収まりが悪く、映画の世界に没入できなかった。

ドラゴン・タトゥーの女 [デヴィッド・フィンチャー監督]


デヴィッド・フィンチャー、やったねー。小説の映画化ではなく、映画「ドラゴン・タトゥーの女」が出来上がっている。

ベストセラー小説「ドラゴン・タトゥーの女」の映画化。原作は濃密なミステリーでありながら社会に向けたメッセージも織り込まれている秀作。原作の読者にはかなりはっきりしたイメージが作り上げられているから、映画化をどう評価するだろうか。一人の原作ファンとして、これは原作のアウトラインを持った上質のミステリー映画「ドラゴン・タトゥーの女」だ、と思った。

結末が原作と異なっているのだけれど、この結末もアリ、だと思う。むしろ映画を観てから原作を読むと、原作の結末の方がひねりすぎて終盤が長引いてしまった、という印象を受けるかもしれない。

この映画にもクリストファー・プラマーが登場。若き日のクリストファー・プラマーを「眺めのよい部屋」のジュリアン・サンズが演じている。いい配役だと思う。

「移民の歌」がバックに流れるオープニングのアニメーション(?)。よく観ていると、ミレニアム・シリーズの第2作、第3作のエピソードをなぞっているかのような動きだ。すると、今後、「火と戯れる女」「眠れる女と凶卓の騎士」も続々映画化、ということか。

ただ、登場人物たちの背景がかなり抜け落ちているので、原作を読まずに映画を観ると、途中で???という部分がかなりあると思う。

スウェーデン人(イギリス人、アメリカ人、なんにせよ)も、人の気持ちを損ねてはいけない、という本能が働くのか。このことは原作にももちろん書かれていたけれど、この映画を観て、ちょっとでもあれ?と思ったら立ち止まってよく考えること、というのを習慣づけることにした。