2012-12-15

アラビアン・ナイトの世界 [前嶋信次著]


1970年に発行された前嶋先生のアラビアン・ナイト解説本の文庫版。前嶋先生はアラビアン・ナイトの全説話を日本語訳にすることを始めた方。

前半は前嶋先生とアラビアン・ナイトとの出会いと、平凡社の東洋文庫から出版することになった経緯などが語られている。さらに研究者によるアラビアン・ナイト起源説をめぐるこれまでの学術論争などについて書かれ、アラビアン・ナイトとその他の古典文学との類似性について論証している。シンドバードとオデュッセイアの類似点などの検討。さらに、アラビアン・ナイトが各地域の説話から影響を受けていることを読者に知ってもらうために、アラビアン・ナイトから一つの物語を取り出して掲載している。

この本の目的は学術的な考察なのだけれど、わかりやすい文章で読み物として楽しめる。

別巻を除いて全18巻発行されているが、前嶋先生は12巻の途中で力尽きてしまわれた。池田修先生が引き継いで日本語版アラビアン・ナイトが全巻刊行されたという経緯がある。私は10年近くかけて全巻読破した。あれからさらに10年以上経って、偶然この本を見つけて読んで、アラビアン・ナイトの面白さを思い出した。

アラビアン・ナイトを読んでいる時からずっとバグダッドに行ってみたいと思っている。アラビアン・ナイトの時代の面影はもう街中にないだろうけれど、バグダッドという町をこの目で見てみたい。私が老人になって死ぬまでの間にはバグダッドが平穏な町に戻る日が来ると思う。それまで待つつもり。