FBIで美術窃盗事件の潜入捜査官だった著者の、自分史。
鬼平的潜入捜査とジョン・ル・カレ的官僚対立も描かれていて面白い。美術史レクチャーもあり、盛り沢山の内容。この本でも、理想の上司について書かれている。つまり、細かいことに口出しせず、自分の手柄に固執せず、部下に裁量を任せて、美術品奪還と犯人逮捕を最優先目標として仕事をする上司。たぶんそれは読者の殆ども賛成することだと思うのだけれど、なぜ自分が管理職になると正反対のタイプになってしまうのか。たぶん、自分に対する信頼と強さが欠如しているからなのでしょう。
美術品窃盗捜査は、麻薬やテロ捜査より下に見られているが、美術品がうまく回収されたニュースは華々しく新聞紙面を飾り、読者のウケがいい。人々は血生臭い事件より、心がほっとする報道の方を求めているのだ。特に盗掘品が回収されるニュースがなぜ歓迎されるのか。
盗掘は「ほかの美術品泥棒とは異なり、私たちが過去を知るよすがを奪っていくのだ。---中略---埋蔵品が盗掘されると、考古学者は背景に則した研究、すなわち歴史を実証する機会を失ってしまう」「すべての人々から盗みを働いているに等しい。」と著者は言っている。
著者の人生の転機となったのは、自動車事故。飲酒8時間後に起こした自損事故で同乗の同僚が死亡する。無罪を勝ち取るし、この事故の裁判をきっかけに潜入捜査官として必要な知識や経験を積むようになるのだけれど、私がこの本から得たことは、飲んだら乗るな、です。