2010-10-06

アラバマ物語[ハーパー・リー著]


心に深く残る作品。

アラバマ州の架空の町を舞台に、第二次世界大戦前のアメリカ南部の町の三年間を描いている。語り手は、弁護士一家の当時6才の娘。学校に上がって社会と接するようになりはじめた女の子の生活と、父親が弁護することになった黒人の暴行事件にまつわる事柄が描かれている。

映画化され、主人公の父親の弁護士をグレゴリー・ペックが演じた。本に映画のスチル写真のページがあり、それを見てからは、父親をグレゴリー・ペックのイメージで読んでいた。グレゴリー・ペックをイメージして作品が書かれたのではないかと思うくらいだ。

人生、社会、人間のあらゆることが描かれている。子どもから少女に変わっていく主人公、少年から男に変わっていく主人公の兄、非難されようとも自分の信念を貫く父親。差別に苦しみながらも生きることを楽しんでいる黒人たち。貧しさと無知によって孤独な生活を送る若い白人女。プライドゆえに孤独な老女。世間のしがらみから逃げている引きこもりの男。農民の生活。南部の白人女性の傲慢さ。

描かれているのは80年近く昔のことになるけれど、アメリカ社会の現在にも当てはまることが多い。だからこの本は発行され続け、読者を引きつけている。

NPRのStory of the dayで、「To kill a mockingbird(物まね鳥を殺すのは)」に関連する記事があったので読むことに。「To kill a mockingbird」が名作だということは知っていたが、本の表紙を見て「あの本だったのか」とちょっと驚いた。日本語版のタイトルは「アラバマ物語」。雑誌「暮しの手帖」の巻末に暮しの手帖社商品の広告が載っているのだけれど、そこに「アラバマ物語」も必ず載っていた。今までずっとこの広告を見ていたのに、それが「To kill a mockingbird」の日本語翻訳だとは全然気づかなかった。

作者のハーパー・リーはこの作品でピューリッツァ賞を受賞したが、他には作品を書いていない。アメリカ南部を舞台にした名作には「風と共に去りぬ」があるが、作者のマーガレット・ミッチェルも、他には作品を書いていない。