アリストテレスからコミュニタリアニズムまで政治哲学の主要な理論を追いつつ、より善い社会を実現するにはどのような考えに基づいてどのように行動すればよいのかを考えている。
講義(この本)は、功利主義、リバタリアニズム、カントの純粋実践理性、契約論、アリストテレスの目的論と議論を進め、サンデル教授が持論とするコミュニタリアニズムの考えに学生(読者)を導いている。
コミュニタリアニズムは、その人自身は同意した覚えがなくとも人間には守らなくてはならない道徳的つながりがある、という考えのもと、人は属するコミュニティの過去・現在の中で自己を考え、現在と未来に善い影響を与える生き方をするべきではないか、としている。
この考えは仏教に通じていると思う。自己は独立した存在なのではなく、環境と一体化しており、コミュニティは自分であり、自分はコミュニティの一部である、という考えにおいて。
冒頭で、サンデル教授はこの講義は「慣れ親しんで疑いを感じたこともないほどよく知っていると思っていたことを、見知らぬことに変えてしまう」(上巻p.22)と言っている。これは学問の真髄であり醍醐味ですね。そしてこの本を読んで、物の見方が少し深まったような気がします。
ポッドキャストで講義を視聴していたが、功利主義からリバタリアニズムに移るあたりでついていけなくなってしまった。課題図書を全て読み、講義を理解してその場で自分の意見を述べ、さらにレポートも書いているハーバードの学生はやはり優秀だ。
しかし、この政治哲学の一連の講義を読んで思ったことは、これらの理論は先進民主社会を前提としているのではないか。アフリカ、南米の社会は、社会の中で善を追究するという環境にすらなっていない。
「銃・病原菌・鉄」を読んだ後なので、ロールズの、有利な条件から得た結果を不利な人たちのために役立てる、という考えは、ユーラシアに在る社会がアフリカと南米にある社会に対して負っているものであるとも思う。
カントについても紹介しているのだが、カントの、自分が自分に課しているルールに従っている限り自分は自由だ、という考えは、ハードボイルドの主人公たちと同じではないか。彼らはカント的に生きているといえる。