
冒頭に殺人シーンがあり、刑事コロンボ的にドラマが進行するのかと思いながら登場人物たちのドラマを読んでいた。今の時代の話だけれど、ここに描かれている人間ドラマは時代が変わっても色褪せないものがある。たいていのミステリは、真相解明シーンに至るまでの間に描くドラマにトリックの手がかりをちりばめていて、読者はそれを拾いながら読み進めていくようなところがあるけれど、この作品は描きたい人間ドラマをより効果的に描くためにトリックを使っている。2005年直木賞受賞作。
暴力夫と離婚した女性が、マンションに訪ねてきた元夫を殺してしまう。彼女を心秘かに慕っている隣人の数学教師は殺人があったことを知り、遺体遺棄とアリバイ作りを買って出て女性の窮地を救う。しかし、聞き込みに来た草薙刑事の目の前で郵便物を取ったことから、名探偵ガリレオこと湯川博士の同窓生であることがわかり、湯川が事件に関わることになり、結局真相を暴かれてしまう。
郵便物を取らなければ湯川が関わることにもならなかったと思う。数学教師は女性に刑事には必要最低限のことしか言わないように、と言いながら自分は余計な動作で綻びを作ってしまった。
映画化されたが、数学教師のキャストは小説のイメージと正反対。これでは作者が描きたかったことを映画は描いていないのではないかと思う。