2010-04-29

ひとつの名前、ふたつの人生 [NPR]


Original Title: The Destinies Of Two Men Who Share One Name

ウェス・ムーアという同姓同名で同年代の二人の男の話。

二人には共通点がいくつかある。母子家庭で育ったこと。ローティーンの時に警察の厄介になったこと。そこから二人の人生は正反対の方角へ進んで行く。ウェス・ムーアAは軍の教練所へ入学して従軍、除隊後はホワイトハウスで研究員をしたこともある。ウェス・ムーアBは麻薬に手を染め、中毒、売買、20才になるまでに4人の子どもが生まれ、現在は終身刑で服役中。

ウェス・ムーアAがウェス・ムーアBの存在を知ったのは、仕事で南アフリカにいる時、母親が電話で「お前と同じ名前の男を警察が探している」と言ったことから。興味をもってウェス・ムーアBについて調べ、思い切って刑務所へ手紙を書いた。そうしたら数ヶ月後返事がきて、それから二人の交流が始まる。

ウェス・ムーアAは自分たちについての本を著した。NPRのこのインタビューで語られていることは「父親の不在」「貧困家庭の子どもをおびき寄せるストリートの罠」「母親のやる気」などだけれど、ウェス・ムーアAは最後にこう言っている。「刑務所で一生を送らなければならない男からの手紙で一日が始まれば、自分がどれだけ恵まれた境遇なのか、感謝の気持ちを持たざるを得ない」ウェス・ムーアBはこの本を読んで「自分がどれだけチャンスをふいにしてきたのか。人生の分岐点にいる奴らを助けてやってくれ」と言っている。

2010-04-23

グラーグ57 [トム・ロブ・スミス著]


衝撃的だった「チャイルド44」の続編。フルシチョフのスターリン批判を受けて政治犯が次々と収容所から釈放される。その中の一人が自分たちを密告した人たちや逮捕拷問した捜査官たちを暗殺していく。主人公のレオも捜査官だった過去ゆえに標的とされ、家族が危機に晒される。

今回も共産時代のロシアの知られざる側面がいろいろ描かれている。収容所の管理者と政治犯たち、ヴォリと呼ばれる犯罪者集団、ソ連官僚の改革論者と保守派の攻防。

レオとライーサが養女にした少女が第二の主人公のように描かれている。14才。ジュリエットのように、外からの刺激を受けてどんどん世界を広げていく。思春期に自分には力があると感じられてそれを行使できる状況にあったらどんな気分になるだろう。紛争国にいる少年兵、少女兵はこんな風に出来上がっていったのではないだろうかと思った。

これでもかこれでもかのドラマてんこ盛り。登場人物をたった3メートル移動させる間にも作者はドラマを用意してくれている。そこまで登場人物たちをいじめなくてもいいんじゃない。復讐、復讐ってよく物語の原動力になっているけれど、復讐相手のことを考え続けるなんてまっぴらごめんだ。復讐が生きるよすがになるほど復讐相手に自分の人生をあずけたくないね。

レオが主人公の物語はもう1作で完結するらしい。

2010-04-18

ローマの休日 [ウィリアム・ワイラー監督]


永遠の名画、永遠のラブ・ロマンスですね。女性なら全員がオードリー・ヘップバーンが演じているアン王女になって、グレゴリー・ペックのようなハンサムでちょっと不良の年上の男性と、ローマの町めぐりをしたいという夢を持つはず。

「ローマの休日」はオードリー・ヘップバーンのほぼデビュー作。アン王女がローマ訪問の最後の会見で大人に変身したように、オードリー・ヘップバーンも終盤では"女優"になっている。会見場を去り際に見せる表情が素晴らしい。寂しさ、嬉しさ、悲しさ、充実感が去来する。

ラブ・ロマンスの映画はあまたあるけれど、「ローマの休日」が人々を魅了し続けているのは、登場人物たちが良き人たちとして描かれていて、演じる役者たち自身のあり方が反映されているからだと思う。役者として素晴らしいだけでなく、人間としても素晴らしい人たちだということがわかるからだと思う。

水の完全リサイクル [GOOD FOOD]


Original Title: Recycling Water

オレンジ郡で実施されている水リサイクル事業。下水を集めて浄水し、それを高地の貯水池へ戻して上水道として再利用しているとのこと。この浄水システムはシンガポールでも採用されているもので、シンガポールでも同様に貯水池に戻しているとのこと。リサイクル水の味はまずくはないらしい。

下水が浄水されてすぐに上水道に戻されると抵抗があるけれど、貯水池から流れてくるのなら受け入れられそうだ。

水は今後大きな問題になってくると思う。水道事業の民営化の話題が先日あったけれど、完全リサイクルは希望が持てるニュースだと思う。

2010-04-17

20世紀少年 [浦沢直樹著]


最終巻の22巻をやっと読み終わった。この作品はツインピークス化してしまったのではないか。冒頭提示された謎だけでなく、どんどん新事実が明らかになり、謎が深まり、物語の世界が閉じることなく開きっぱなしのまま終わってしまった。

映画版の方では辻褄を合わせて謎が納得できる形で終わっている。それに映画のラストでは切ない気分にさせられ、物語から深い印象を受ける。映画版を観ていたから、コミック版がこんな風に終わってもまぁいいかという感じ。

これも復讐の物語なのかなぁ。そんなにケンジの仲間に入りたかったのですか?いつまでも小学生の時の欲求不満を抱えて生きるなよ。それにみんな50才を過ぎてよく小学校の時のことを鮮明に覚えているなぁ。

2010-04-11

北朝鮮の食事情 [GOOD FOOD]


Original Title: Eating Inside North Korea

Googleマップ上で北朝鮮の地図に食堂や市場の印をつけている人の話。

この人は今は経済学の博士課程の学生で、2004年か2005年に北朝鮮に行ったことがあるとのこと。当時の外国人観光客向けの食事はいわゆる韓国料理だったけれど、まずかったと言ってる。北朝鮮へ行くのにも、旧共産圏の国経由でないと行かれなかった。

今はアメリカ人が北朝鮮を観光するのは以前より規制緩和されていて、意外に多くの人たちが訪れているよう。といっても平壌だけしか滞在できないのでしょうが。

韓国企業が進出したこともあり、外国人観光客向けの食事はかなり改善され、ケンタッキーフライドチキンやピザ、ハンバーガーがあるとのこと。フライドチキンは8個で7ドル50セント。

でもこの間のNPRの記事では、北朝鮮ではカエルも食べ尽くしてしまったほど飢餓状態にあるとのことだから、外国人観光客向けの食事の原材料が本当に鶏肉なのか疑問じゃない?

2010-04-07

やってみなはれみとくんなはれ [山口瞳、開高健著]


山口瞳、開高健、さすがに文章がうまい。おもしろい!
ちょっと出だしを読み始めたら引き込まれてどんどん読んでしまった。

山口瞳、開高健が執筆したサントリー社史。山口瞳は創業から終戦までの「寿屋」と鳥井信二郎を描いている。赤玉ポートワインの成功で寿屋が資本を蓄積し、ウィスキー製造に乗り出した経緯。開高健は、戦後、佐治敬三ががビール製造を始め、事業として安定させるまでの道のりを描いている。

鳥井信二郎の「やってみなはれ」が人々を鼓舞し、会社を大きくしたことがよくわかる。商人としてイケるかどうかの判断はあったと思うけれど、「やってみなはれ」という一言だけでみんな一所懸命がんばれるものだと思う。「やってごらん」は後で「ほーらね」と言われそうな気がするけれど「やってみなはれ」には期待が感じられる。応えなくては、と頑張る力が湧いてくる。

これを読んで赤玉ポートワインを飲みたくなってしまった。今は赤玉スゥイートワインというのですね。酒屋にちゃんと置いてあった。甘い!でも葡萄の香りがしておいしい。去年100周年だったらしい。1世紀、製造し続け販売し続けるサントリー、やっぱりエライな。

2010-04-06

脳癌患者が謎の急増 [NPR]


Original Title: Cancer Cluster In Florida Worries Parents

フロリダのパーム・ビーチ郡で、脳癌を発症する子どもが増えている話。

これまでの16年間で13例が明らかになっている。脳癌は珍しいし、しかも子どもが発症することは殆どないので、患者の家族は「うちの子は運が悪かった」と思っていたが、教会などでご近所に話してみるとその地域に何人も同じ病気の子どもがいることがわかった。すでに完治している子もいる。

住民はなぜ脳癌発症率が高くなっているのか、原因究明を要求している。しかし調査は遅々として進まない。調査にあたっている疾病予防管理センター(CDC)の職員は、転居した住民もいるし、癌の進行は時間がかかるものだからそんなにすぐに原因を特定できない、と言っている。行政側にしても、住民が出て行くのを止めたいので原因究明にそれほど積極的ではないよう。

一部の地域で特定の病気が特定の年齢層に急増しているとは、まるでXファイルのファーストシーズンのエピソードのようだ。完治している子がいるのが救いだ。

2010-04-05

四大文明 メソポタミア [松本健編著 NHKスペシャル「四大文明」プロジェクト編著]


巻頭に遺跡や遺物の写真が多数掲載されていて、メソポタミア文明の想像力の素晴らしさに惹き付けられた。

メソポタミア文明を知り、何はなくとも水があれば人間は豊かな生活を生み出すのではないかと思った。水がどれだけ重要な資源であるか。チグリス・ユーフラテス川流域は、川がもたらす水源の他には何の天然資源もなかったが、人々は農耕と牧畜を発明し、生活を豊かにして当時の最先端の文明を築いた。日本だって天然地下資源はないけれど水は豊富にあった。

各章をその分野の研究者が担当して書いているのだけれど、読み物というより論文を初心者向けに書き直したような文章で、なかなか読み進めることができなかった。巻末の遺跡ガイドは旅心をくすぐる。これらの遺跡を観光できるのはいつになるか。

この本は2000年発行だが、NHK取材班の紀行文には、湾岸戦争でイラク国内にあるメソポタミア遺跡が危機に瀕していることを伝えている。この1年後に9.11がありイラク戦争が始まったことを知っている上で読むと、遺跡の状態に不安が募る。

アンコール遺跡も今は大勢の観光客が訪れている。そのうち行けるようになると思う。平和ならイラクもこれらの遺跡を観光資源に外貨を稼ぐことができるのに。

2010-04-04

ニューヨークで養蜂 [NPR]


Original Title: Finally, New Yorkers Can Bee All They Can Bee

ニューヨークでは蜜蜂は危険動物に指定されていたが、規制緩和され、ニューヨーク市内で蜜蜂を飼う事ができるようになった。

それを受けて養蜂講座に人気が高まっているとのこと。これまで隠れて養蜂をしていた人たちも大っぴらに蜂を飼えるようになった。一つの巣からだいたい5キロから7キロの蜂蜜が採れるそう。

養蜂をしている人は、蜜蜂は環境変化のセンサーだし、蜜蜂がいなければ受粉できず、果樹や植物から収穫できなくなる。鯨よりも蜜蜂保護を優先すべき、と言っている。蜜蜂がいなくなったらまさに「沈黙の春」ですね。

国産の蜂蜜はとても高価。自宅の庭で養蜂できたら蜂蜜に不自由しないなぁ。

道草を食べる [GOOD FOOD]


Original Title; Urban Foraging

ロサンゼルス近郊のサンタ・アナで、道端の草や木の実を食べる企画。NPO団体「ナチュラリスト・フォー・ユー」代表の案内で試し食いしている。

排気ガスとか泥とかで汚れているから、食べる前に何を食べようとしているのかよく確かめるようにとのこと。人の敷地に生えている草や樹木の果実は、所有者の許可を得ることと言っている。樹木の果実がたわわに実っている場合は、所有者はかえって喜んでくれるらしい。処分するより食べてもらった方が楽だから。

ロコワという果実や、木いちご類、野生のネギなんかを食べている。キャロブはヒッピー時代、チョコレートの代用品だったらしく、レポーターは「まさにチョコレートだ」と言っている。そんなに食べられるものが道端にあるなら、色々試してみたくなった。

この不況時代、お店で買わずに道端で調達できたら相当家計の助けになるでしょう。

ところでこのNPO団体「Naturalist for you」のリンクが番組HPにあるのだけれどサイトがなくなっている。Facebookにもファンサイトがあるらしいのだが、これも消えている。大丈夫かな。

2010-04-03

ロミオとジュリエット [フランコ・ゼッフィレリ監督]


シェイクスピアの凄さが初めてわかった。

ゼッフィレリが制作したメトロポリタンオペラ劇場の「ラ・ボエーム」の舞台装置は30年経った今も使われていて、幕が開くと観客が思わず拍手をしてしまうほどの素晴らしさだとのこと。この映画でもセット、ロケ地、衣装、すべてがゼッフィレリの美意識を表わしている。屋内の調度はすべて本物のように見えるし、仮装舞踏会のシーンで役者が着ているドレスはどれも重厚で上質の生地で作られた意匠を凝らしたものばかり。

ジュリエットは13才だよ。中学1年生だ。思春期は子どもに比べると行動力の値がぐんと上がる。美人に生まれて生きるってどういう気持ちなのだろうか。美人は早いうちから他者から働きかけられ、どんどん世界が広がっていく。不細工だと誰も働きかけてくれないから、自分が気づくまでずっと子どもの時と同じ世界に居つづける。不細工でぼーっとしていたら尚更だ。

シェイククスピアの作品がなぜ末永く取り上げられているのかよくわかった。人間の美しさ、弱さ、醜さ、強さを絶妙のあんばいで配している。ロミオとジュリエットの美しい恋、ヴェローナから追放されて泣きわめくロミオの弱さ、見境なく敵を挑発する両家の醜さ。それから脇役にもドラマがあるから、役者は演じ甲斐があるというもの。「シェイクスピアの恋」をもう一度観てみたくなった。