2011-06-26

情婦 [ビリー・ワイルダー監督]


マレーネ・ディートリッヒの横顔が美しい。

人間の、というか女の弱さ、強さ、醜さ、美しさ、愚かさ、傲慢さ、すべての感情が詰まっている。それは原作者アガサ・クリスティが描き出したものなのだけれど、トリックの背景として女のドラマを置いたのか、女のドラマを描くためにトリックを作り出したのか。

老弁護士を演じたチャールズ・ロートンが素晴らしい。厳格で、権威的で、強情で、しかし人情とユーモアとかわいらしさを感じさせる。弁護士事務所のスタッフがロートン演じる弁護士を迎え入れる冒頭シーンの嬉しそうな様子は、この人物が本当に尊敬され愛されていることを表しているけれど、ロートン自身が納得できるように演じている。

この映画について語るとどうしてもネタばれになってしまうのだけれど、いつもラストシーンに老弁護士とお節介看護婦の恋の始まりを感じるのですよね。

1957年制作。


<以下、ネタバレの上での感想>



タイロン・パワー演じる容疑者ボールが、老弁護士の反射光によるテストに難なく合格して、弁護を担当してもらうのだけれど、光を当てられた目は義眼だった、というオチがあったと思う。映画にはそれはなかったが、クリスティの原作に書かれていたのだろうか。タイロン・パワーはこの映画の翌年に亡くなっていた。

マレーネ・ディートリッヒは、駅でのシーンを除いてどのシーンでもマレーネ・ディートリッヒとしてスクリーンに登場している。演じているクリスティンではなくて、マレーネ・ディートリッヒとしてしか見ることができなかった。

弁護士事務所を訪れる時、証言台に立つ時の毅然とした物腰。ベレー帽の被り方がイキだ。戦争中のベルリンの酒場で歌姫として現れる時。破られたズボンから剥き出しだ脚の美しいライン。無罪となった夫にしがみつく時の恋する女の哀れさ。裏切られたことを知った時の絶望、自暴自棄。どのシーンでもマレーネ・ディートリッヒが美しくスクリーンに映っている。マレーネ・ディートリッヒはマレーネ・ディートリッヒ以外として存在できない女優なのかとも思わされる。

だが、裁判が終わったラスト、マレーネ・ディートリッヒがどんなにすごい女優なのか、観客は思い知る。