17世紀のロンドンを舞台に、貴族の未亡人から稀覯本探しを依頼された書籍商が主人公のミステリ。
書籍商が一人称で語る1660年のロンドンでの出来事と、捜索を依頼された稀覯本「ヘルメス文書」にまつわる1620年のボヘミアでの出来事が交互に描かれている。
作品が描いているのは、ガリレオ、コペルニクスなどが天文学を解き明かし、「科学」という新しい考え方が人々を魅了し始めた時代。
書籍商が「ヘルメス文書」を探す過程で、エジプトの魔術師や、ギリシアの哲人たち、錬金術師の著作が次々と現れ、聖書が唱える自然原理とは別の世界にこの時代の人々が魅了されていることが描かれている。特に航海術の進歩は、国家の存亡にかかわる重大機密事項だったようだ。
陰鬱で博学の作品なのだけれど、話が大きく展開し登場人物が謎に迫りそうになると、ふいに場面が変わっておあずけをくってしまう。後半はそういうおあずけがやたらと多かったような気がする。
「薔薇の名前」と「アッシャー家の崩壊」をもじっているのかな。稀覯本が著わしている学問についての描写が多かったし、最後は依頼人の屋敷が壊れた配水管のせいで崩れ落ちる。
東欧でカソリックとプロテスタントの争いがあったというのを初めて知った。またバルカンの歴史について興味が湧いてきたので、バルカン関連の本をまた読もうと思う。