2010-07-28

インド史への招待 [中村平治著]


インド旅行記を書いているので資料として読んだ。難しくない文章で、簡潔に必要なことがまとめられてあって、インドの歴史全般を学ぶのに最適。

今書いているのは、2007年12月から2008年1月にかけて行ったインド旅行について。旅行中ははじめの1週間で半年経ったような気がした位1日1日が長く感じられたが、旅行記も1日分を書くのにものすごく長くかかっている。この7月下旬から8月中はずっとインド旅行記にかかっていて、ブログがおろそかになってしまった。インド旅行記はこちらにありますので、よかったらのぞいてください。

写真は、北インドのチャンデリという、ガイドブックにも載っていない小さな田舎町のモスク。旅行中私が撮ったもの。

2010-07-24

大脱走 [ジョン・スタージェス監督]


映画は、いきなりあのテーマソングで始まった。戦争映画だけれど、どこかワクワクする感じ。

収容所所長の紳士らしい軍人らしい態度が印象深かった。「ナバロンの要塞」のラストシーンでも、ドイツ軍人がナチス親衛隊と一線を画した軍人らしい態度でいたのが印象に残っている。

「大脱走」では犠牲者も数多くでるが、どことなくほのぼのした感じがする。脱走に成功した人たちもいるし。ラストで収容所所長が更迭されて親衛隊が引き継ぐ時に暗雲がたれ込める感じ。

大物俳優が多数出演しているのに、それぞれの持ち味が調和して素晴らしいチームワークになっている。みなさん若いけれど、特にチャールズ・ブロンソンは別人かと思うくらい若かった。

それにしても、第二次世界大戦の時は同じ白人で同じキリスト教徒同士で戦っていたのか。あれから70年経って、もう白人のキリスト教徒同士で戦争することはないような気がする。いつか同じ地球上の人間同士で戦争することに違和感を感じる時代になるだろうか。

何となく見ながらタランティーノ監督の「イングロリアス・バスタード」を思い出していた。

2010-07-21

魔女が語るグリム童話 [池田香代子著]


グリム童話の登場人物たちにツッコミを入れつつ、童話に込められた現代にも通じる風刺をパロディにして描いている。

こどもの頃、グリム童話にどこかちょっと異常な雰囲気を感じていた。それはグリムがぼかして描いていた本当の人間の姿が垣間見えたからかもしれない。グリム童話をもう一度よく読んでみたくなった。

それにしても、グリム童話にはキリスト教の影響があまり感じられない。ゲルマンの土着信仰が生きているようだ。中世のキリスト教会組織はそれだから、魔女狩りで異教に対する自分たちのキョーフを封じ込めようとしたのかもしれない。

2010-07-18

焼かないで作るパイ [GOOD FOOD]


Original Title: Raw Pie

番組ではこの夏もパイ・キャンペーンを実施中。色々なパイが紹介されているが、焼かないで作るパイが登場。

加熱しないで調理した食べ物を摂る人たちが増えているよう。生食主義者と言うのでしょうか。生食主義者のための焼かないアップルパイは、焼いて作る普通のパイのおいしさを再現するためにいろいろ工夫している。

切ったリンゴはシナモン、オレンジジュースとシロップをまぜて乾燥させる。オーブンで焼いたリンゴは脱水状態になっているのでそれに似せるため。パイ生地はナッツや種子を砕いたパウダーに、粘り気のあるナツメヤシをまぜて固める。どうしても食感がボソボソして切り分ける時に崩れやすいので、クリームを加えてまとめやすくする。このクリームはカシューナッツと水をフードプロセッサーで作るとのこと。寒天を加えてもいいと言っている。

焼かないで作るアップルパイは、暑い夏向きのパイだと思う。

2010-07-16

赤い霧 [ポール・アルテ著]


おもしろい!怪奇幻想の世界。

19世紀末のイギリス、9年前にあった密室殺人事件を解決しようと一人の青年が田舎町を訪れる。9年の間に少女から大人の女性に成長したヒロイン、行方不明のままの被害者の長男。明らかにされる被害者の行状。正体不明の主人公。

一人称の作品なのに、主人公が誰なのか第一部の後半になるまでわからない。アガサ・クリスティの「アクロイド殺し」のトリックではないかと、すべての描写を細心の注意を払って読んでいた。何度も冒頭から読み返したりして。

ベテラン(?)の推理小説ファンは、作者のトリックに引っかかるまいと読んでいくのが面白いが、それほど経験を積んでいない時に読んだら、唐突なプロットの変化についていけなかったかもしれない。

この作品には3つの事件が重奏している。第一部では密室殺人が解明され、ちょっとしたどんでん返しもある。第二部が描くのはその後日談のようでいて、実は第一部で密かに提示されている伏線によって、この作品が扱っている事件の本当の真相が語られる。

作者はフランス人だが、だからか、19世紀末のイギリスの雰囲気がよく描かれている。この作品は2004年に出版された。作者の看板作品はツイスト博士シリーズとのこと。これも読んでみようと思う。

2010-07-12

白洲次郎・正子の食卓 [牧山桂子著 野中昭夫写真]


白洲家所有の器に白洲夫妻の長女である著者が作った料理を盛り付け、白洲家所有の民芸布をテーブルクロスにして撮影した写真集。器と布の由来、料理の調理方法が簡単に記されている。

器は江戸中期の伊万里、フランス絵付け大皿、魯山人作鉢、福森雅武作土鍋など。民芸布は、刺し子、インド更紗、中近東の刺繍布など。

料理は著者が両親のために作っていたもの。その料理にまつわる両親の思い出も語っている。

参鶏湯やフカヒレ、松茸は別にしても、どこの家でも使っている材料と調理器具で作れるおかずが多いのは意外だった。茄子と赤ピーマン、白和え、薩摩汁、野菜スープなど。ダッチオーブンで作るパエリヤはおいしそう。

武相荘も道具類も、白洲夫妻が使っていたものは、素朴に見えて手が込んでいる逸品ばかりだ。ここにも千利休からの流れが見える。

それにしても、白洲次郎が豆腐を食べなかった「とても人様には言えない理由」とは何なのだろう?

2010-07-11

オキナワに米軍基地は要らない [NPR]


Original Title: Odd Couple: Frank And Paul Target Military Spending


「沖縄に米軍基地は要らない」と主張し始めたのは民主党と共和党の上院議員二人。政治的に対立する立場の二人が「軍事予算の大幅削減」で共同戦線を張っている。

歴史的な経済停滞にあって、軍事にお金を注ぎ込んでいる場合じゃないということ。超党派の二人は、この先10年で1兆ドルの軍事予算の削減を目標にしており、その矛先を海外駐留軍に向けている。

日本は自分で自分を守れるはずだし、中国の脅威に対抗というが、実際の話、事が起こった時沖縄駐留軍を中国本土に侵攻させるなんて誰も考えちゃいない。それに同盟軍ならばヨーロッパ軍もアメリカ国内に駐留するべきじゃないか。あっちでもこっちでもアメリカが一方的に負担するのはおかしい。駐留軍は冷戦時代の遺物であり、無用の長物だ、と言っている。

この二人の意気込みはかなり本気のようで、強硬な保守派「お茶会」と協同してもいい、と言っている。「お茶会」はオバマ政権の社会政策に反対している政治グループ。軍事予算を削ることで社会政策に係る税金の引き上げを阻止できるなら「お茶会」はのってくるかもしれない。そうしたらかなりの勢力になることでしょう。

フロスト気質 [R.D.ウィングフィールド著]

イギリスの架空の町デントンを舞台にした警察小説、フロスト警部シリーズ。

ゆるい警察小説なのだけれど、読み出すと止まらなくなる。

デントン署管内で、少年誘拐殺人事件、少女誘拐事件、腐乱死体、一家惨殺事件と四つの事件が同時に発生。しかも、デントン市警察の幹部が起こした交通事故によって同乗していた警察幹部数名が入院。このための一時的な人事異動のせいでフロスト警部に捜査指揮権が集中してしまう。それぞれの事件の捜査の過程で別の事件の手がかりが見つかり、後半は事件がひとつずつ解決されていく。

陰惨な事件の連続なのだが、フロストのおっさんの軽口のおかげで全然暗くない。まったく頭のいい人だ。厭味な上司の切っ先をこんなにあっさり制することができるなんて。「おれも気づいていましたよ。署長がこの部屋に足を踏み入れたときから--何か踏んづけたんですか?」


リーバスやボッシュと同じく、フロストも些細な気がかりをないがしろにせず、追求の手をゆるめない。「そういう小さな点をゆるがせにしないで、徹底的に追及するってこと、警部に教えていただきました」

空振りもあるけれど、その帰り道に次の展開につながる何かしらを拾って来ている。とにかく動き続けていれば状況は開けて行く。

あとがきに著者ウィングフィールドが最近、79才で逝去したとある。未邦訳のフロスト警部シリーズはあと2作品とのこと。年を取っても枠に収まらないで軽妙お下劣(?)なミステリを生み出していたとは、見習わなければと思う。

ドジャー・スタジアムの食べ物 [GOOD FOOD]


Original Title; Dodger Dogs and Sushi

ロサンゼルス・ドジャーズの本拠地、ドジャー・スタジアムで売られている食べ物の話。

アメリカの野球見物で欠かせないのはホットドッグとビールまたは炭酸飲料だが、最近は新商品がいろいろ登場しているらしい。

スシ、スパイシー・シュリンプ・カクテル、フィッシュ・タコス、グリーク・サラダ、ターキー・サンドイッチ、ナチョなど。スシは握り寿司ではなくて、カリフォルニア・ロールのような巻き寿司だと思う。

名物にヴィクトリー・ノッツと呼ばれているドでかいプレッツェルもある。野球のグローブ位の大きさで、三種類のディップがついてくる。マスタード、シナモンクリーム、チーズ。一つが一応4人前ということなのだけれど、一人で食べる人が多いそう。

新商品が出ても一番人気の座を維持しているのはドジ・ドッグ。ドジャー・スタジアムのホットドッグで、10インチのソーセージを7インチのパンにはさんだもの。センチでいえば、約25.4センチのソーセージに約18センチのパン。デカい。辛いソーセージのドジ・ドッグもあり、これはビールに最適とのこと。

2010-07-04

薔薇の名前 [ジャン・ジャック・アノー監督]


中世の世界を見事に再現している。公開当時も観たが、今回観て、登場人物たちのキャラクターがまるで漫画のように際立っているという印象を受けた。演じる俳優の髪型、肌の色、顔の造形が漫画のようにはっきり特徴付けられている。

物語は、14世紀の僧院で連続殺人事件が起こり、僧院を訪れたフランチェスコ会の僧が真相を究明していく。僧院の図書館の蔵書に事件を解く鍵があるらしい。

原作はミステリの骨格を持ちながら当時の思想、哲学、宗教、社会について詳細に記述しているウンベルコ・エーコの作品。読んだだけでかなり博識になれそうなくらい。しかも、登場人物たちの名前のひとつひとつに著者は意味を隠している。

原作を読んだ後に映画を観ると、あまりに端折りすぎて流し過ぎていると感じるが、公開当初に観た時は、重厚で剥き出しの人間ドラマに圧倒された。

2010-07-02

世界を変えた6つの飲み物−ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、紅茶、コーラが語るもうひとつの歴史−[トム・スタンデージ著]


おもしろい!すごく面白い本です。

"人類"が発明・発見した飲み物を通して、人類の歴史を語っている。飲み物が作られた状況、飲まれていた状況、その飲み物が持つ社会的意味について書かれている。飲み物を通して、その時代の庶民の生活が生き生きと浮かび上がってくる。

この本は、その時そこで暮らしていた大多数の庶民のささやかな欲求の積み重ねが時代のうねりを生み出し、歴史を作り出したのだということをドラマのように描いている。

ビールを飲む時、乾杯してグラスを合わせるのはなぜか。ビールは最初大きな龜で作りそこにみんながストローを差し込んで飲んでいた。同じ龜から飲んで連帯感を分かち合っていた名残がグラスを合わせる行為として残されているのだということ。

ギリシア人はワインを水で薄めて飲んでいたということ。ワインを原酒で飲むのは野蛮人で、ワインを全く飲まないのは無教養な人間だと考えていた。試しに赤玉ポートワインを冷たい水で薄めて飲んだら、風味は変わらずおいしく飲めた。

蒸留酒は当時流行りの錬金術の派生物で、大航海時代に求められていた酒であったこと。腐ることがなくアルコール分が強くて少量で酔えるから、長期間の航海にぴったりだった。

コーヒーは飲まれ始めた当初から、知識階級の飲み物であったこと。今もスターバックスにはインテリを自認する人たちが集まっている。

紅茶。これほど歴史の影の立役者(?)たる飲み物はない。大英帝国発現のエネルギー源となり大中華帝国を崩壊させた。読後に紅茶を飲んだ時、あらためて清涼感があり殺菌作用もある飲み物と実感した。この清涼感ゆえに歴史が大きく動いたのか。

コカ・コーラ。コカの実とコーラの木の成分が入っているからコカ・コーラと命名された。この安易な名前の飲み物は地球上のどこでも飲める商業製品でもある。初めていわゆる途上国を旅したとき、異国の味に慣れなかったけれどコカ・コーラを飲んでほっとしたことがある。どこで飲んでも同じ味なのだ。

この本はトリビアの宝庫でもある。でも、人類の日々の暮らしの歴史をこれほど鮮やかに教えてくれる本は他にないと思う。