2012-12-20

消えた錬金術師 [スコット・マリアーニ著]


元特殊部隊員で子どもの誘拐を専門に探偵・救出者として仕事をしているベン・ホープが主人公。

ベンは大富豪から、不治の病に侵されている孫娘を救うために不老不死の薬の処方が書かれた20世紀初頭に実在した錬金術師の手稿を探すよう依頼される。ベンが子ども専門の仕事をしているのは、子どもの時に妹が行方不明になったことに由来するのだが、孫娘の名が彼の妹の名と同じであることから、彼にとっては分野違いの物探しをすることになる。ここに、不老不死薬を研究している若い女性研究者、錬金術師の手稿を探す宗教組織、フランス警察のマッチョな警部などが絡んで、謎を巡る逃走劇が繰り広げられる。

20世紀の錬金術のこと、カトリックから異端扱いされたカタリ派のこと、などなど歴史背景はきちんと書かれている。が、私の印象は、冒険ハーレクイン小説。

ベンは、ベンジャミンのベンではなく、ベネディクトのベン、だという設定に惹かれて読むことに。ということで読んでいる間中、ベン・ホープのイメージはずっとベネディクト・カンバーバッチでした。

2012-12-15

アラビアン・ナイトの世界 [前嶋信次著]


1970年に発行された前嶋先生のアラビアン・ナイト解説本の文庫版。前嶋先生はアラビアン・ナイトの全説話を日本語訳にすることを始めた方。

前半は前嶋先生とアラビアン・ナイトとの出会いと、平凡社の東洋文庫から出版することになった経緯などが語られている。さらに研究者によるアラビアン・ナイト起源説をめぐるこれまでの学術論争などについて書かれ、アラビアン・ナイトとその他の古典文学との類似性について論証している。シンドバードとオデュッセイアの類似点などの検討。さらに、アラビアン・ナイトが各地域の説話から影響を受けていることを読者に知ってもらうために、アラビアン・ナイトから一つの物語を取り出して掲載している。

この本の目的は学術的な考察なのだけれど、わかりやすい文章で読み物として楽しめる。

別巻を除いて全18巻発行されているが、前嶋先生は12巻の途中で力尽きてしまわれた。池田修先生が引き継いで日本語版アラビアン・ナイトが全巻刊行されたという経緯がある。私は10年近くかけて全巻読破した。あれからさらに10年以上経って、偶然この本を見つけて読んで、アラビアン・ナイトの面白さを思い出した。

アラビアン・ナイトを読んでいる時からずっとバグダッドに行ってみたいと思っている。アラビアン・ナイトの時代の面影はもう街中にないだろうけれど、バグダッドという町をこの目で見てみたい。私が老人になって死ぬまでの間にはバグダッドが平穏な町に戻る日が来ると思う。それまで待つつもり。

2012-12-10

パンプルムース氏のおすすめ料理 [マイケル・ボンド著]


グルメガイドの秘密調査員となった元パリ警視庁の敏腕警部が主役。格付け調査で訪れたホテルで殺人事件が起こり、グルメ調査と事件捜査に奔走する。

飼い犬も主人公に劣らぬ美食家という設定。ユーモア小説というかお笑い小説なのかもしれないけれど、フランスのユーモアが肌に合わないのかあまり笑えなかった。

作者はくまのパディントンの作者でもある。

2012-12-05

007 スカイフォール [サム・メンデス監督]


シリーズの中で一番人間ドラマが描かれている作品だと思う。

ダニエル・クレイグシリーズは1作目と2作目は、ジェームズ・ボンドの恋人への愛にまつわる話だったが、3作目は母への愛がテーマなのかな、という気がする。M役のジュディ・デンチを史上最高齢のボンドガールと呼ぶ映画評論もあった。

Mのドラマがジェームズ・ボンドと同じ位の比重で描かれており、名女優ジュディ・デンチがMをリアルな存在として演じている。2作目と3作目の間にMは未亡人となり、ハイテクマンションから市内の戸建てに引っ越しているし、高齢を理由に退職を迫られてもいる。ボンドの荒唐無稽なスパイアクションとは別の、役人としての情報部員のドラマが描かれている。

敵役はハビエル・バルデム。敵の本拠地が軍艦島のような島だったので、世界にはこういう島が他にもあるんだ、と思ったら、最後のクレジットロールにロケ地としてGUNKANJIMAと出てきた。

レイフ・ファインズがM=ボンド側と対立するMI6の監視役として登場。なんてイヤミなエリートなんだ、と思っていたら後半、Mが襲撃されるシーンで活躍。ラストでボンドの上司役Mに就任し、ボンドとチームを組むことになる。この作品で一番カッコいい役だ。

ダニエル・クレイグ007はショーン・コネリー007へのオマージュに溢れている気がするのだけれど、終盤、ボンドの故郷が登場して決定的だ、と思った。ショーン・コネリーが007役を演じることになった時、ジェームズ・ボンドはスコットランド人ではない、という批判があったらしい。でもボンドの故郷スカイフォールをスコットランドにしたこの作品は、スコットランド人であるショーン・コネリーへのオマージュではないか、と思う。

冒頭シーンでボンドの同僚として追跡、戦闘シーンで活躍するイブが、ラストでMの秘書となり、本名がマネーペニーであると明かす。007シリーズの原点に戻っての幕引きだが、内心、ミスマネーペニーはやがてMI6で昇進して、新たな"M"になるのではないかな、と勝手に妄想してしまった。

裏切りのサーカス [トーマス・アルフレッドソン監督]


2回目の鑑賞。

2回目の方はストーリーの流れと人物関係、伏線がよくわかり、より深く映画を鑑賞できた。

1960年代の冷戦下のイギリス情報部。ソ連のスパイが情報部内に潜んでいることがわかり、内務省は退職した情報部員のジョージ・スマイリーに秘かに調査を依頼する。スマイリーは現職の若手情報部員であるピーター・ギラム(B.C!)を仲間に引き入れ、捜査を進める。

その頃、ソ連大使館の職員がイギリス情報部に内通しており、スマイリーはこの内通が逆にソ連に西側の情報を流すチャンネルになっているのではないか、と睨み、関係者を一人一人洗い出していく。

スタイリッシュな映像と緊迫の演出。イギリスのベテランから中堅までの名優たちの演技。何度観ても面白い作品だ。

前回はまだベネディクト・カンバーバッチのファンでなかったのだけれど、その後彼のファンになったので、もう一度観ることに。彼が登場する度にニンマリしてしまったのでした。

ドライブ [ニコラス・ウィンディング・レフン監督]


最初のシーンから"ドライバー"の世界に引き込まれた。

車のドアが閉まった瞬間、エンジンオイルとガソリンと、芳香剤がまじった湿った空気の匂いを嗅いだような気がした。

犯罪現場から実行犯を逃がす走り屋をしているドライバーが主人公。冒頭シーンで、強盗を乗せ警察の追跡を振り切るのだが、このドライバーは只者ではない、と思わせる演出が秀逸。ビルの影になった暗闇に停車したり、バスケットボールの試合会場の駐車場に駐車したり。スピードだけではないカーチェイスを描いている。

ドライバーは同じアパートに住む亭主が服役中の母子家庭と親しくなる。亭主が出所してドライバーと三角関係になるのかと思いきや、この亭主がまたドラマを深めるような人間性を備えている。結局この前科者亭主はもう一度犯罪に手を染めなければならなくなり、ドライバーが協力することになるのだけれど.....。

ライアン・ゴスリングが、潜在する凶暴性を押し隠している、静かで寡黙で愛らしい一面を持つドライバーを演じている。「ラース、とその彼女」の彼とは別人のようだ。

激しいアクションシーンは少ないが、静かな車内に緊張が漲り、次に何が起こるか、観ている間中心臓がドキドキさせられた。

監督はデンマーク出身。原作は米南部出身でイギリスに移住した作家ジェイムズ・サリス。脚本はイラン出身のホセイン・アミニ。2011年カンヌ国際映画祭監督賞受賞。