サスペンス推理小説の形をとっているのだけれど、この作品は、小説家であることの考察、小説家哲学が隠されたテーマのよう。
死刑囚の依頼で女性たちを訪ねる本筋に、主人公が執筆してきたSFポルノ小説やヴァンパイア小説の一節(一章)も現れ、更に別れた恋人のこと、見えない読者との関係についての考察、色々な要素を含む多重構成になっている。でもいつも主人公が考えていることは、「なにゆえぼくらは本を読むのか」そして、なにゆえ書き続けるのか。
推理小説としてのトリックと小さなどんでん返しは推理小説ファンも納得。でも、作者が作品中問い続けている問い、なにゆえ読むのか、が強く印象に残った。「すべての文学作品は、----世の中に対するささやかな抵抗でもあるのだ」
読んでいて中盤以降、主人公のイメージが三谷幸喜氏になってしまった。あと、ハヤカワポケットミステリの表紙絵が変わって初めて読んだ作品。