読んだ本と、映画館で観た映画の記録をつけています。
おもしろかったポッドキャストの記事の紹介も。ポッドキャストは、NPR:Story of the DayとKCRW:GOOD FOODから。
コピー&ペースト等転載はお断りします。
2010-01-29
滝 [イアン・ランキン著]
「蹲る骨」の次の作品。銀行家の娘の失踪、謎のミニチュア棺、クイズと、イギリスミステリーらしい舞台設定になっている。
今回もリーバスはベテラン先輩刑事としてチームを引っ張る役。リーバス本人より、脇役の刑事たちの成長ぶりがよく描かれていると思う。このシリーズを好ましく思うのは、女性刑事が活躍しているから。出世頭のジル・テンプラー、リーバスっぽくなりつつあるシボーン、上昇志向と実力の間で苦悶するエレン・ワイリー、仕事を全うしたいフィリダ・ホズなど。リーバスがマッチョを誇示することなく、彼女たちに後輩に対する思いやりを示しているのが好ましいです。
それにしてもシボーンはモテるなぁ。前作のリンフォードといい、今回のフッドといい、シボーンには彼らを惑わす妖しい魅力があるようです。
フリーメイソンについても出てくる。フリーメイソンの会員って珍しくない存在なのですね。スコットランドの町、自然の描写も多く、スコットランドにハイキングに行きたくなってしまった。
2010-01-28
悪人正機 [吉本隆明 糸井重里著]
イトイさんが吉本隆明に仕事、正義、素質などのキーワードについて訊ね、その答えをまとめた本。いろいろうなずく言葉が多かった。
天才について、「そういう領域の特色というのは、着想です。そこでは、着想がまるで違う」
「普通の人がぜいたくして、いい洋服着たりうまいもの食ったりっていう、そのテーマがなくなっちゃったら、歴史の半分がおもしろくねぇ」
たしかに、少しでも贅沢したい、いい服を着たい、おいしいものを食べたいという欲求が文明を押し進めて来たのではないか。
そして、「みんなが同じようにそのことに血道をあげて、一色に染まりきらないと収まりがつかない」事に対して「そういうことは戦争中にさんざんやってきて、結局、無効だったってことなんですから」と言っている。それは太平洋戦争時代の日本だけでなく、ソ連、文革時代の中国、赤軍派、現在の北朝鮮にも通じる。今の日本にも会社や学校、何かの団体で、みんなが同じように一色に染まりきることを要求する場がある。それは「無効」だと吉本さんが断言しているのは心強い。
他にも例えば「耐え忍んでやっていくというのは『ひとつのやり方』にしかすぎない」というのもあった。耐え忍ぶのは強さであり美徳だと一般に誉められるが、そうしなければならない、ということはなくて、その人が選んでいるにすぎないのだ。
心強かったのは、「自己評価よりも下のことだったら、何でもやっていい」という言葉。これは甘えではないのですよね。背伸びをして実際より大きく見せようとすることは、却って心の負担を伴って消耗してしまうと思う。それにどこか不安を抱えているから、人に足元を見られることもあるだろう。吉本隆明も「それ以上のことをやろうってヤツはダメだ」と言っている。
語られている考えが私の考えと全く違う、ということがなく、これほど影響力のある思想家が同じようなことを言っているというのが心強かった。
この本は、2001年6月5日に第一刷で同月15日にすでに第二刷。相当売れたのですね。
2010-01-23
ロサンゼルスでギャング・ツアー [NPR]
Original Title: Los Angeles Gang Tour Puts A Twist On Drive-Bys
ロサンゼルスのサウスセントラルといえば、最も治安が悪くギャングが徘徊していることで有名。この地域をバスで巡るツアーが月1回のペースで実施されているとのこと。
料金は45ドル。元ギャングがツアーを主催している。アシスタントというか安全な被写体としてもう一人元ギャングが同乗している。
主催者がこのツアーを実施するのは地域経済活性化のため。よそ者がやって来ることで地域に変化をもたらせればと考えている。またツアー料金は地元に還元しているらしい。しかし、サウスセントラルが危険なことに変わりはなく、乗客はバスの中からしか町を眺めることはできないし、写真撮影も禁止されているよう。
ロサンゼルスに長年住んでいる外国人や、外国人旅行者が参加しているよう。怖いもの見たさなのでしょう。私も行ってみたい気がする。
2010-01-22
蹲る骨 [イアン・ランキン著]
エジンバラの警察小説、リーバス警部シリーズ。
歴史的建造物から白骨化した死体が発見され、さらに浮浪者の自殺、スコットランド議会議員候補者の殺人事件、といくつかの事件が同時に発生。ネタばれすればこれらは相互に関連して真相に辿り着く。
今回の話では、リーバスは一匹狼として警察組織内や犯人から狙われるというヤバい状況にはならない。どちらかというと、シボーンやその他の若いの刑事たちとチームを作って事件を解決していく。リーバス警部シリーズにあるピリっとした辛さ、渋さがあまり感じられなかったけれど、ベテラン先輩刑事としてのリーバスが描かれている。それと、シボーンの女刑事っぷりがよく描かれていたと思う。
スコットランドの独立運動については聞いたことがあるけれど、この作品を読むとスコットランド独立を一般スコットランド人がどう考えているのかがわかる。
2010-01-17
ティーンエージの逃亡者 [NPR]
Original Title: At Large: Teen Bandit. Even Larger: His Legend.
ワシントン州の18才の男子が、窃盗と盗品所持で警察に捕まったが、護送途中に逃げ出し、以来8ヶ月逃亡を続けている話。男子はこの間に飛行機を盗んだり、カナダに身を隠したりしているということだから、スケールの大きい国際的な逃亡者でもある。窃盗と家宅侵入を繰り返しているが殺人だけはしていない。
この男子のことは世界中に報道されて、アメリカ国内だけでなくギリシャ、イタリアでもファンが増えているらしい。
マスコミは母親にも取材している。母親は、息子はアインシュタインよりIQが3ポイントだけ低い天才なんだと自慢している。でもこの男子の両親は、家庭内暴力で何度も警察が出動する騒ぎを起こし、この男子が幼いころに離婚している。
映画みたいな事件だけれど、本人も俳優並みの男前だ。でも警察も母親も、映画ならあり得ない結末を望んでいる。つまり本人が自首すること。映画だったらたぶん脚本家も監督も、悲劇的な結末に持って行こうとするだろうと思う。
こんなに頭の良い、行動力のある子が生かされる職業ってなんだろう、と考えたら、007かなぁと思った。
2010-01-16
パティ・スミスが過ごしたメープルソールとの日々 [NPR]
Original Title:Patti Smith Remembers Life With Mapplethorpe
ロック歌手のパティ・スミスが写真家ロバート・メープルソープと一緒に暮らしていた時代を本に著わした。そういえばメープルソープの作品にパティ・スミスのヌード写真があった。
二人が一緒だったのは、パティ・スミスもメープルソープもまだ駆け出しだった1970年代。この頃はまだエイズという病気は知られていなかったし、メープルソープは自分が同性愛だと自覚していなかったとのこと。メープルソープはまだ写真家でもなかった。
パティ・スミスは今は50代後半だと思うが、インタビューに答えてメープルソープを回想している彼女は美しい思い出を掌にそっと抱える繊細な女性に聞こえる。パティ・スミスの激しい歌とメープルソープの静謐な写真の対比。そして1980年代にはスキャンダラスで悲劇的だったエイズによる死。実話だけれどとてもロマンチックな小説のような印象を受ける。
2010-01-15
三銃士 [アレクサンドル・デュマ著]
三谷さん脚色の人形活劇が放映されているので原作を読んでみることに。
面白い!特にアトスとミレディーの再会のシーンにシビれました!アトス、心を持って行かれたよ。アトスがダルタニアンに語る恋物語の結末の凄惨さに度肝を抜かれた。「決心がつくまで、あと一秒の余裕だ」この非情さ。「私はあの男だけは身をもって守ってやる」この友情の熱さ。 悪女のために人生を捨てた高潔の騎士の原型ですね。そしてミレディーはその価値のある稀代の悪女だよ。
友情、裏切り、恋、冒険。今日まで続くテーマなのだけれど、100年以上も前の作品が輝き続けているのは、そこに何があるからなのか。20世紀の冒険小説で22世紀に入っても人々を魅了する作品はどれなんだろう。やはり純粋に人間を描いているものにその価値があるのか。
そういえば映画「スラムドッグ・ミリオネア」でも三銃士がキーワードになっていた。
2010-01-13
Patagonian Wilderness [Intrepid Travel]
2009年12月24日から2010年1月12日まで、南米のパタゴニアを旅してきました。オーストラリアの旅行会社Intrepid Travelのツアー"Patagonian Wilderness"に参加しての旅。
ツアーはブエノスアイレスを基点に、飛行機でカラファテへ移動、そこから陸路ウシュアイアまで下り、ウシュアイアから飛行機でブエノスアイレスへ戻る行程。パタゴニアは氷河あり、平野あり、山あり、川あり、湿地あり、海あり、羊あり、グアナコあり、高山植物あり。バラエティに富んだ自然の風景に心を揺さぶられ続けました。
しかし、ブエノスアイレス到着2日目にお金(2万円相当)をスられ、メモリカードを失くし、カメラのレンズは傷つき、山登りはキツく、(ほぼ全員の)アルゼンチン人にはウソをつかれ、ホステルの朝食はパンとコーヒーのみ、しんどく、悔しい思いばかりの旅でもありました。アルゼンチンでの食事は、あいまいな味付けが多く、それほど楽しめなかったし。
パタゴニアはアルゼンチンとチリにまたがって広がっているので、チリ側も回りましたが、チリについては好印象が多い。キャンプサイトにはコックがついて、食事はおいしかった。朝食に必ずスクランブルエッグが出て、夜はデザート付。山岳ガイドは39才独身の牧場の跡取り息子。冒険小説に出てくるような渋い男前でした。
1600枚近く撮った写真の中から、景色、食べ物、犬などをFlickrに載せています。
2010-01-07
脱北者が見た北朝鮮 [NPR]
Original Title: In New Book, N. Korea Seen Through Defectors' Eyes
ロサンゼルスタイムスの記者が脱北者を取材して「羨むことは何もない(Nothing to Envy)」という本を著わした。
まずこの本の冒頭には、衛星が撮した北東アジアの夜間の写真が載っているとのこと。韓国と中国、日本は灯りで白く輪郭が浮かび上がっているが、真ん中の北朝鮮は黒いままだ。北朝鮮に電力がないことがこれでわかる。北朝鮮は壊滅的な飢餓状態にあるとのこと。北朝鮮にはもうカエルがいないらしい。朝鮮人にカエルを食べる習慣はないけれど、食べ尽くしてしまったのだ。犬も猫もネズミも、雑草も、樹皮も何もかも食べ尽くしてしまった。
この間読んだ「チャイルド44」の冒頭には、ソ連の大飢饉の様子が描かれている。子どもを捕まえて食べようとさえするのだ。それと同じことが北朝鮮で起こっている。
「羨むことは何もない」というタイトルは、北朝鮮の子どもたちがよく歌う歌のタイトルから来ている。その歌は「お父様が守ってくれる家に住んでいる私たちはみんな兄弟姉妹。外の世界には何にも羨むことはない」という内容。
北東アジアの真ん中にある北朝鮮だけが、文字通り闇に沈んでいる写真を見ると、事態の深刻さにあらためて気づかされる。
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