2009-06-05

戦争請負会社 [P.W. シンガー著]


ふぅ、やっと読み終わった。

シンガーは、民間軍事請負企業(PMF:Privatized Military Firm)の出現で、これまでの国際安全保障研究の前提を見直す必要があるのではないか、と言っている。つまり、軍事力を持つのは国家だけで、国家間の関係を考察する安全保障研究の前提が"挑戦"されているということ。

この本は2002年4月に出版されている。9.11の後でイラク戦争が始まる前だ。この本の前に読んだ「戦争サービス業」は2008年に出版されている。出版順に読んだら、「戦争サービス業」のユッセラーは、「戦争請負会社」のシンガーの受け売りを書いているのではないか、と思ったかもしれない。

シンガーは、PMFに対する人々の態度は賛成か反感の両極端しかないが、自分はこの本で中立的な立場からPMF産業に関する情報を提供し考察したい、と言っている。しかし、私の見るところシンガーはどちらかというとPMF容認派のよう。PMF産業の暗黒面を見据えて、監視体制、法規制を整備し、政策を検討したらどうか、と言っている。

ユッセラーは「民間軍事会社の利用は必要だとおっしゃるが、本音は結局のところ政治的打算、政治的なご都合主義の問題でしかない」と強い口調で非難している。

シンガーはアメリカ人で、ユッセラーはドイツ人。背負っている軍事にまつわる歴史観の違いがある。

この本で日本が言及されているのは四箇所。

p.84の、18世紀末オランダ東インド会社の軍隊の兵士は2万5000人以上いて、その殆どが日本人とドイツ人の傭兵だったという記述。

p.146の、米国における外注化は、1980年代に日本株式会社が米国経済を追い上げていた時、企業が中核能力に集中して効率を高めようとしたことから始まった、という記述。

p.203の、通信手段を提供している軍事支援企業の一つ、I.ディフェンス社は、伊藤忠といった大会社と協定を結んでおり、PMFの異業種提携の前触れのようだ、という記述。

p.391の、ある政府がPMFと契約すれば、クーデターの危機に晒されるリスクを負うという見解の箇所で、「歴史的に部外者の指導による軍改革は、オスマン帝国からロシア、日本、エジプトまで、暴力的な内部衝突を引き起こした」と書いている。

それにしても地下資源があるということで、どれだけその国を疲弊させるか。もし日本に希少な地下資源があったら…。「貧しき者汝は幸いなり」ですね。

実は出だしでシンガーさんとは気が合わないかも、という箇所があり、読み終わるまで本当に長くかかってしまった。