2012-02-27

二流小説家 [ディヴィッド・ゴードン著]

SFポルノ小説、ヴァンパイア小説、ポルノ雑誌の人生相談といった"二流"の文筆業で糊口をしのいでいる主人公が、連続猟奇殺人事件の死刑囚から依頼を受けて、死刑囚にファンレターを送った女性たちを訪ねる。が、彼女たちは主人公が会った直後に次々と殺されてしまう。死刑囚は無実で真犯人は別にいるのか、それとも....。

サスペンス推理小説の形をとっているのだけれど、この作品は、小説家であることの考察、小説家哲学が隠されたテーマのよう。

死刑囚の依頼で女性たちを訪ねる本筋に、主人公が執筆してきたSFポルノ小説やヴァンパイア小説の一節(一章)も現れ、更に別れた恋人のこと、見えない読者との関係についての考察、色々な要素を含む多重構成になっている。でもいつも主人公が考えていることは、「なにゆえぼくらは本を読むのか」そして、なにゆえ書き続けるのか。

推理小説としてのトリックと小さなどんでん返しは推理小説ファンも納得。でも、作者が作品中問い続けている問い、なにゆえ読むのか、が強く印象に残った。「すべての文学作品は、----世の中に対するささやかな抵抗でもあるのだ」

読んでいて中盤以降、主人公のイメージが三谷幸喜氏になってしまった。あと、ハヤカワポケットミステリの表紙絵が変わって初めて読んだ作品。

2012-02-25

英国王のスピーチ [トム・フーパー監督]


エリザベス女王の父、ジョージ6世が吃音を克服し、第二次大戦中、そのスピーチで国民を勇気づけ鼓舞し続け、国父として尊敬を集めるまでになった話。

話は皇太子時代から始まる。父である国王ジョージ5世に代わってスピーチをする機会が増してきたが、吃音のために話すことができない。奥方がハーレー街の片隅のビルの地下にオフィスを構えるオーストラリア人の吃音矯正師に、夫の吃音矯正を依頼する。

ヘレナ・ボナム・カーターが奥方を演じているのだけれど、彼女が素晴らしい女優であることをあらためて、というか初めて知らしめたと思う。最近の彼女はヘンな役が多い。でもこの映画で演じている役は、後の皇太后にふさわしい女性を表現している。実力と人間性が備わっていなければできないと思う。しかも、ちょっとユーモアも感じさせる。理想の嫁であり母ですね。

2012年2月のウィリアム王子の結婚式で、バッキンガム宮殿のバルコニーから一族が揃って手を振っている姿を、BBCのアナウンサーが、この結婚は一家族のお祝いなのです、というようなことを言っていた。映画のラストで、ジョージ6世が奥方と娘たちと一緒にバルコニーに出て群衆に手を振る。家族の絆、を感じた。夫であり父である国王が試練を克服するのを家族が支えた。そして、一般人であるオーストラリア人の友情がその原動力となった。

人と人のつながりは、その地位によるのではなく心と心による時、もっとも強くなる。そして強いつながりは人に人間的な深みを与えると思う。

2010年製作。2011年アカデミー賞作品賞受賞。

ブラック・スワン [ダーレン・アロノフスキー監督]


バレエ団の新プリマに選ばれた主人公は、演目の白鳥の湖で、白鳥と黒鳥の両方を演じることになるが、レッスンがすすむうちに彼女の秘められた二面性、いい子と悪女、が顕わになり、現実と妄想を行き交う狂気の世界へ入り込んでいく、という話。

バーバラ・ハーシーとウィノナ・ライダーが出演しているのが懐かしい(?)感じがした。バーバラ・ハーシーはヒロインの母親役。自分の力不足ゆえに叶えられなかった夢を娘に託すシングルマザー。夢と娘への思い入れゆえ、ヒロインを追いつめる一端を担ってしまう。ウィノナ・ライダーは全盛期が過ぎてしまった花形プリマ。本人の私生活とかぶる感じ。

お稽古ごとのバレエでは上手に踊ることを求められ、上手に踊ることでホメられて自分の存在価値に納得していたが、大人になると芸術としての深み、人の心に訴える何かを求められる。子どもから思春期を経て大人になるって、実は難しいことなのですね。

童貞の妄想はコメディになるのに、処女の妄想は狂気として描かれてしまうのか。

2010年製作。2011年アカデミー賞主演女優賞受賞作。

2012-02-04

世界の社食から-グーグル編 [GOOD FOOD]


Original Title: The Google Food Program

ネット界のメガジャイアント企業グーグル社は、社員に無料で食事を提供している。ということで、番組プロデューサーがマウントビューにあるグーグルキャンパスを訪れ、グーグルの社食プログラムを取材。

グーグルキャンパスにはカフェが28あり、5人のシェフによって運営されている。平日は朝食、昼食、夕食の3食を提供し、週末は昼食と夕食を提供。社員と訪問者は、どのカフェでも無料で好きなだけ食事をとることができる。ある社員は夫婦でグーグルで働いており、週末は子どもを連れて一家で社食で外食しているとのこと。

生産性向上のために社員には心身ともに健康でいてもらわなければならない、というのがグーグルの方針で、そのためにハーバード大学の公衆衛生大学院が推奨する栄養管理プログラムに基づいて、社食で体によい食事を無料で提供している。

ネットビジネスは超多忙だから、社食が充実していても食べに行く時間がない、ということもありそうだ。そのあたりについても抜かりなく、オフィスの各所にミニキッチンが設備され、コーヒー、ソフトドリンク、簡単なスナック、チップスを摂ることができるようになっている。とにかく、社員を飢えさせないようにするためにあらゆる手段を講じている。

社食の食事は栄養管理が行き届いている分魅力に欠けることがあるけれど、グーグルの場合には当てはまらないよう。番組プロデューサーが取材の最後に注文したメニューは、ラムのパスタ、ブルーチーズとイチジクのピザ、グリーンサラダ、そして山羊乳チーズ。

徹底した栄養管理は何となく共産国家を連想させる。グーグルの方がもっとずっと贅沢で豪華だけれど。食事の時間もとらせないほど従業員を酷使して生産性を上がようともがく企業が馬鹿みたいにみえてくる。心身ともに健康な人こそが活発に生産活動するのはたしかで、結局は企業にいい影響を与えるのだからグーグルの考えは素晴らしい。一方で、この素晴らしいプログラムは果たしていつまで続くのだろうか、と考えてしまう。グーグル社員と知り合いになって、マウントビューキャンパスに行ってみたいナ。