2011-10-28

おばちゃまはヨルダンスパイ [ドロシー・ギルマン著]


CIA臨時エージェントの中年女性が主人公のロマンス冒険小説シリーズ。

引退したCIAエージェントが、友人のイラク人作家からの原稿を受け取るためにヨルダンへ赴くことになったのだが、観光旅行を装うカモフラージュとしておばちゃまこと主人公のポリファクス夫人を伴って旅立つ。イラク秘密警察、ベドウィン、ヨルダン警察を巻き込んでの騒動と危機の中で、おばちゃまが大活躍する。

「おばちゃまはスパイ」シリーズを初めて読んだ。シリーズを通して読んでいれば、おなじみの登場人物たちとのやりとりでこのシーンはクスリ、ニヤリ、なんだろうな。シリーズ初心者も十分楽しめた。ロマンス小説的冒険小説なのだけれど、国際情勢もしっかり書かれていて、スパイ小説としての面もきっちり押さえている。

1997年の作品。携帯電話がようやく普及し始めた頃で、アナログなスパイ活動もまだできた頃なのですね。今はインターネットと携帯電話抜きにスパイ小説を書くことができるのだろうか。

この年末にヨルダンへ行くので読んでみることに。冒険と恋があって、最後は無事に帰国できる、というのは理想の旅ですね。

2011-10-24

図書館の美女 [ジェフ・アボット著]


「図書館の死体」の続編。

母親の介護のために故郷の町に戻った元エリート編集者の周辺で再び事件が。連続郵便箱爆破事件に揺れる町に不動産会社による再開発計画が持ち上がり、反対派と賛成派に住民が分かれての大騒ぎに。主人公の元カノが不動産会社社員として町にやって来て、今カノとの間で何かと軋轢が生まれる一方、前作で判明した実父との関係もぎくしゃく。

シングルマザーの姉と認知症の母との同居となったら頭を抱えてしまうところだが、富豪の娘である美人の恋人がいるから主人公の生活はバランスがとれているのではないでしょうか。

前作では容疑者扱いされた主人公が汚名を晴らすために奔走して独自捜査を行うという理由付けがあったのだけれど....。

21世紀になった今でも、南部の人たちは南北戦争での敗北から北部人に対してこだわるものがあるようなのだけれど、この作品もそのことについて随所で描かれている。日本でも、福島県人は山口県人に対して今だに少しく反感を抱いている、と聞いたことがある。

2011-10-09

幻のバナナを求めて [GOOD FOOD]


Original Title: Go Bananas!

ナショナルジオグラフィックから助成金をもらって、コンゴへ新種のバナナを探しに行った人の話。この人は「バナナ」という著書もある。

コンゴのバナナ農園に珍しいバナナの種が残されているらしい、ということで研究計画をナショナルジオグラフィックに提出したところ、助成金を出してくれたので、探しに出かけていった。コンゴは中央アフリカに位置する。かつてはベルギーの植民地だったが、農園は1960年代に放棄されてしまった。しかしまだ研究施設が残されており、珍種のバナナを育てているということだった。

結論から言って、目指した珍種のバナナを見つけることはできなかったが、近隣の村落が栽培している8種類くらいの新種を知ることができた。この種の由来を研究するのはかなりやりがいがありそうだとのこと。

バナナは自生受粉しない。つまり人間の手がかからなければ実をつけることはないし、自生地からよその土地に移ることもない。バナナは今や世界中で栽培されているけれど、東南アジアのタイあたりが原産地と考えられている。貿易、戦争などの人の動きにつれてこの3000年でバナナは拡散していった。アフリカのバナナがどのようにして来たのかは、人の歴史を探究することにもなる。

この人が今回のコンゴ行きで見つけたバナナの一つにイボタイボタという種がある。現地語で"肥える肥える"という意味。1本の木に40ものバナナがなるそう。味もよくクリーミーな果肉とのこと。

海外、特に途上国へ行くと色々なバナナを見る。しかし、先進国に流通しているバナナはキャベンディッシュのみ。大手バナナ会社各社がキャベンディッシュという種のバナナしか栽培していないから。今キャベンディッシュにパナマ病という病気が流行っており、バナナ会社は危機感を抱いているよう。

バナナは庭で育てることができる、とのこと。そういえば沖縄や台湾では庭先にバナナの木を見かけることがある。バナナを1本育ててみようか。

2011-10-07

アントニーとクレオパトラ [ウィリアム・シェイクスピア著]


蜷川演出の「アントニーとクレオパトラ」を観に行くので読んでおくことに。

ジュリアス・シーザー亡き後のローマでの権力争いとエジプト王朝の最後が時代背景。そこに中年男女のアントニーとクレオパトラの恋というか愛憎が描かれている。恋は人を愚かにする。「あなたが私のもので、終生変わらぬお心の持ち主だと、どうしてそう考えられよう」

シェイクスピアは素晴らしい。これほど人間と人生と社会を的確で簡潔でわかりやすく表現している作家は他にいないのではないか。シェイクスピアは先駆者だ。

物語として読むと空白部分が多く、突然別方向に展開するような所に戸惑うのだけれど、芝居として読むと、その空白をどのような演出で埋めるか、どんな演技で観客を納得させるか考える余地となる。そこがものすごい魅力なのだろうと思う。脇役にもその人が主人公足りえるドラマが垣間見える。

観に行く芝居がどのような出来になっているか。楽しみが増えました。

2011-10-03

コーリャ愛のプラハ [ズデニェック・スヴェラーク著]


共産主義崩壊寸前のチェコを描いた作品。著名なチェロ・ソリストでありながら、弟が西側へ亡命したためオーケストラを解雇された主人公。お金のためにソ連人女性と偽装結婚するが、女性は子どもを置いてドイツへ亡命。残された子どもの面倒をみる羽目になり、両者の間に心の交流が生まれる、という話。

まるで映画のカットをそのまま文章にしたような文体。チェコ語の特徴なのか、全編を通して現在形なのが違和感だった。が、実はこの作品は映画にもなっているとのこと。映画が始めにあり、それを小説化したよう。

東ヨーロッパの映画らしい演出とカメラワークと照明が見えてくるかのようだった。