2013-07-27

杉の柩 [アガサ・クリスティ著]


人間ドラマが前面に出ているミステリ。

富豪のおばが亡くなり、姪のエリノアが遺産を相続した。エリノアはおばの亡き夫の甥ロディと婚約していたが、ロディはおばの世話係をしていた若い娘メアリィに心を奪われ、婚約は解消される。ところが、メアリィが急死。嫉妬からの殺人ではないかと容疑がエリノアにかかる。エリノアに心を寄せる村の医師がポアロの捜査を依頼して、法廷の場で真相が明らかになる。

三部に分かれていて、第一部はエリノア、ロディ、メアリィの三角関係。エリノアの心の動きを中心にドラマが描かれている。第二部でポアロ登場。詮索好きな看護婦たち、村の若者、屋敷の使用人たちなどへの事情聴取を通して、1部に至るまでにどのようなドラマがあったのかを描いている。そして最終章であっと驚く真相が明かされ、エリノアと村の医師のロマンスが始まって幕となる。

クリスティ作品は大学入学前に全作品を読破したのでこれも読んでいた。「杉の柩」は面白かった、ということは覚えていたがあらすじはすっかり忘れていた。でも、クリスティが仕掛けた犯人を示すささいな伏線にはちゃんと引っかかった。意外に肝心なことは残っているものですね。

1940年の作品。戦前ののどかなイギリスがある。エリノアに恋する村の医師が
「私の欠点は野心が全然ないということですかな。私は頬ひげでもはやして、土地の連中が、『そりゃあ、ずっとロードさんにかかってたんだし、あの人はいい老医師だがね、とにかくひどく旧式だからな。やはり、若い誰それさんに診てもらったほうがいいだろうよ。新しいからね。やりかがたすべて』なんて言いだすまで、ここにいたいですな」と言っている。平和なイギリスはこのすぐ後に戦争に突入するのだ。