1990年代に起きたボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を描いた作品。
当時、セルビア人はムスリム系ボシュニャク人の男性を虐殺、女性の大部分を強制収容して強制的にセルビア人の子を妊娠させていた。ムスリム系人口を消滅させるという民族浄化の目的で。映画はこの強姦収容所を主な舞台にしている。
連行されずに残った人々も、息をひそめて生きなければならない状況。赤ん坊が泣くと住民全員の存在が知られてしまうからビルから投げ落とさざるを得ない状況。自分の周囲すべてに対して疑念、疑心、猜疑を持って生きなければならない状況。
この映画にはアクションを伴う戦闘シーンは殆どない。しかし他の戦争映画が描かなかった、「リアルな戦争」がまさに描かれていると思う。
アンジェリーナ・ジョリーは脚本とプロデューサーも務めている。スタッフの助けもあったと思うけれど、これほどの骨太のドラマを作り上げた彼女に感銘を受けた。セックスシンボル的な美人女優というイメージと別に、本人は本当に強い信念を持って生きているんだ。
映画の冒頭とラストに、ヒロインが描いていた人物画が大写しになる。その人物の顔が、アンジェリーナ・ジョリーによく似ている。自分の作品である、という署名なのかもしれない。