2012-05-16

Tinker Tailor Soldier Spy (裏切りのサーカス) [トーマス・アルフレッドソン監督]

入り組んだ人間関係とプロットをよく2時間にまとめたと思う。ジョン・ル・カレの非情な世界がスタイリッシュな映像で表現されていて、スマイリー三部作ファンとして、満足の行く出来栄え。

「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」が、コリン・ファースとゲイリー・オールドマンをキャスティングして映画化されると聞いた時、コリン・ファースがスマイリーを演じ、ゲイリー・オールドマンがヘイドンだと思った。コリン・ファースは「英国王のスピーチ」で隆とした国王を演じたけれど人間としての弱さも表現していた。演技派の彼ならスマイリーの気弱な感じが出せそうだ。金髪のゲイリー・オールドマンが冷たい色男を演じるのもアリ、だと思った。コリン・ファースの体型の方がゲイリー・オールドマンより丸いじゃないですか。

実際の配役は逆だった。

原作を読んだのは何年も前にだったが、原作を読んでいたので何とかストーリーに付いていくことができた。ピーター・ギラムが資料室からフォルダを持ち出すシーンは、原作でもハラハラドキドキしたけれど映画でもヒヤヒヤさせられた。原作では、地味な事務仕事、無味乾燥な書類の束から手がかりを拾いだすところに意外な面白さがあるのだけれど、映画ではそのあたりの表現はどうしても難しかったのか、男たちの駆け引きとノスタルジックな60年代風景をカッコ良く映し出すことで観客を引き込んでいる。

アン・スマイリーはやはりおぼろげな存在として描かれていた。誰が彼女を演じているのかもわからないように映されている。

原作にはない同性愛的描写が多かったように思う。ピーター・ギラムが男性と同棲していたり、ビル・ヘイドンとジム・プリドーの関係とか。これは実際の事件の中心人物キム・フィルビーが同性愛者だったことを反映させているのか。

この映画で話題のトム・ハーディを初めてまともに観た。キアヌ・リーブス似のイケメンですね。彼が演じたリッキー・ターとジェリー・ウェスタビーを混同していた。スマイリー三部作の第2作「スクール・ボーイ閣下」の準主人公ジェリー・ウェスタビーがリッキー・ターの役回りだと思っていた。原作をあたったらちゃんとリッキーとジェリーは別人物でそれぞれ登場していた。映画の配役を見たら、ジェリ・ウェスタビーもちゃんと登場していた。それでも、トム・ハーディはジェリー・ウェスタビーのイメージに近い。

「裏切りのサーカス」という邦題にはどうしてもなじめないが、映画は大ヒット長期上映中。「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」の続編「スクール・ボーイ閣下」も映画化されるのでしょう。もっと入り組んだプロットと人間関係、広範囲な舞台がどのようにまとめられるのだろうか。個人的に「スクール・ボーイ閣下」にはとても深い人生の思い入れがある。


2012-05-12

Sushi、スシ、すし、寿司特集 [GOOD FOOD]


寿司関連の話題を集めた回。それほどみんなスシが好きなのですね。

□カリフォルニア・ロール以前のスシ
Original Title: Sushi before the California Roll

スシの歴史についての本「スシ物語」(The Story of Sushi: An Unlikely Saga of Raw Fish and Rice)を著わした著者がゲスト。スシの起源から現代のスシ文化を語っている。

スシの起源は、魚を酢っぱい米で発酵させた物で、スシという言葉は中国語の酸っぱいに由来する、と言っている。発祥地は東南アジアではないかと思われ、最初は川魚で作られていたのだろう。16世紀頃に日本で発酵時間を短くしてケーキのように切って食べる方法が考え出され、今のスシにつながった。

アメリカで人気のネタはマグロ、サーモン、ハマチ、ウナギ。最近は脂肪分があるとろけるような食感のネタに人気がある日本ではヒラメを食べているけれど、びっくりするくらいおいしい、と。アメリカスシの特徴は色々な種類の巻物を考え出したこと。

スシはもともとファストフードだったが、今は特別な時に食べる料理になっている。

よく寿司のことを調べている。


□アメリカ スシことはじめ


アメリカにスシがやってきたのは1950年。カナイ・ノリトシという日本人男性がロサンゼルスのリトルトーキョーでスシを始めた。この方は今もご健在。開店当時のお客は日本人駐在員ばかり。アメリカ人はもちろん日系人も来なかった。この頃、日本の金融機関がアメリカ駐在を増やしていたので、日本人ビジネスマンに連れられて来たアメリカ人たちがスシのおいしさに触れ、その後勇気のある人たちがやって来るようになり、スシはアメリカに広まっていった。

私的印象では、日本人の寿司職人のいる店は格式が高い感じがする。


□映画「すきやばし 次郎」
Original Title: Jiro Dreams of Sushi

ミシュランが認め、世界一のスシと外国人が憧れてやまない「すきやばし 次郎」のドキュメンタリー映画が製作された。その映画監督がゲスト。

映画では、店主次郎氏本人の人となり、二人の息子との関係、次郎でのスシ職人修行について描いている。次郎氏は客の前ではストイックで笑顔を見せないが、店が終わるとリラックスする。厨房での修行は、おしぼりの作り方から始まって、魚のさばき方を学び、10年働いて玉子寿司を握るのを許される。

次郎氏は現在86才。すべてにおいて最高水準を求めて、今も寿司を握っている。番組ホストが、でもすごくお高いじゃない、と言うと、監督は、次郎は真のスシ好きが行くところ、と。予約をすればシャリ、ネタ、タイミング、全てが完璧な状態で出てくる。

店は地下にあるのだが、それは天候に左右されずに気温、においが一定に保たれ、味に影響を与えないため、とのこと。私の行きつけの寿司屋も地下にある。次郎は無敵の世界最高水準かもしれないが、身近に頑張っているおいしい寿司屋をみつけて、なじみになって寿司を楽しむのも"真の寿司好き"のあり方ではありませんか。


□持続可能なスシネタの注文
Original Title: Ordering Seafood Guilt Free

スシが世界的に人気を集めるに従い、ネタの魚の乱獲が問題となっている。

ニューヨークでは、スシネタの持続可能性(Sustainability)を考えながら注文するようになっているとのこと。スシバーも持続可能度が高いネタの提供をウリにしている。例えば、青ヒレの魚より黄ヒレの魚の方が育つのが早いから環境に配慮したメニューになっている、とか。

そこでフィッシュ・フォン(Fish Phone)というサービスの紹介。魚の名前をテキストメッセージで送るとその魚についての説明と持続可能評価が返ってくる。

日本でもWWFがスシネタの持続可能性についてキャンペーンを始めたよう。

WWFジャパンさかなガイドはこちら

どの魚を食べれば環境に配慮しているのか、なんて調べながら食べるのも一つの"ネタ"かもしれないが、要するに残さず全部食べること、食べられる量だけ注文したり作ったりすることをまずしたらいいと思うのだが。

2012-05-02

アーティスト [ミシェル・アザナヴィシウス監督]


2012年アカデミー賞作品賞受賞作品。

1920年代末から1930年代にかけて、無声映画からトーキーに移り変わる時代のハリウッドを描いている。

ストーリーは、無声映画の人気俳優がトーキー映画の登場で落ち目になるが、飼い犬と彼が目をかけた女優によって復活を果たす、というもの。とてもシンプルな筋立ての上に"ほぼ"無声映画。台詞はときどき字幕で出てくるだけ。なのだけれど、俳優と犬の演技と演出で観客に様々な感情をもたせてくれる。

無声映画からトーキーへと最新技術で変化する時代をまさに無声と音声で表わしているのが斬新。主演俳優はフランス人だけれど、その他の主要キャラはアメリカ人が演じているから、主演俳優の訛りのある英語を隠すという意味もあるのかもしれない。それでも、製作と監督はフランス人。映画発祥の地、ハリウッドへのレスペクトなくしてこのストーリーにはならなかっただろう。

ヒッチコック映画もストーリーは意外にシンプルだけれど、映画にとってストーリーは複雑にひねった情報過多である必要はないのではないか。映画は、映像と演技と演出を手段にして表現するものだ、ということを再認識させられた。

i-Tunesで予告編を見た時から、名作になるに違いない、と思っていた。特別予告編で、ペピー・ミラーを演じたベレニス・ベジョがダンスシーンのことについてこう言っている。たった2分のシーンのために5ヶ月もレッスンを続けてきたなんて、これぞ映画って感じ、と。