「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」が、コリン・ファースとゲイリー・オールドマンをキャスティングして映画化されると聞いた時、コリン・ファースがスマイリーを演じ、ゲイリー・オールドマンがヘイドンだと思った。コリン・ファースは「英国王のスピーチ」で隆とした国王を演じたけれど人間としての弱さも表現していた。演技派の彼ならスマイリーの気弱な感じが出せそうだ。金髪のゲイリー・オールドマンが冷たい色男を演じるのもアリ、だと思った。コリン・ファースの体型の方がゲイリー・オールドマンより丸いじゃないですか。
実際の配役は逆だった。
原作を読んだのは何年も前にだったが、原作を読んでいたので何とかストーリーに付いていくことができた。ピーター・ギラムが資料室からフォルダを持ち出すシーンは、原作でもハラハラドキドキしたけれど映画でもヒヤヒヤさせられた。原作では、地味な事務仕事、無味乾燥な書類の束から手がかりを拾いだすところに意外な面白さがあるのだけれど、映画ではそのあたりの表現はどうしても難しかったのか、男たちの駆け引きとノスタルジックな60年代風景をカッコ良く映し出すことで観客を引き込んでいる。
アン・スマイリーはやはりおぼろげな存在として描かれていた。誰が彼女を演じているのかもわからないように映されている。
原作にはない同性愛的描写が多かったように思う。ピーター・ギラムが男性と同棲していたり、ビル・ヘイドンとジム・プリドーの関係とか。これは実際の事件の中心人物キム・フィルビーが同性愛者だったことを反映させているのか。
この映画で話題のトム・ハーディを初めてまともに観た。キアヌ・リーブス似のイケメンですね。彼が演じたリッキー・ターとジェリー・ウェスタビーを混同していた。スマイリー三部作の第2作「スクール・ボーイ閣下」の準主人公ジェリー・ウェスタビーがリッキー・ターの役回りだと思っていた。原作をあたったらちゃんとリッキーとジェリーは別人物でそれぞれ登場していた。映画の配役を見たら、ジェリ・ウェスタビーもちゃんと登場していた。それでも、トム・ハーディはジェリー・ウェスタビーのイメージに近い。
「裏切りのサーカス」という邦題にはどうしてもなじめないが、映画は大ヒット長期上映中。「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」の続編「スクール・ボーイ閣下」も映画化されるのでしょう。もっと入り組んだプロットと人間関係、広範囲な舞台がどのようにまとめられるのだろうか。個人的に「スクール・ボーイ閣下」にはとても深い人生の思い入れがある。