2011-11-27

ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士 [スティーグ・ラーソン著]


リスベット、かっこいい!

前作「火と戯れる女」のラストシーンからこの小説は始まる。人身売買組織、冷戦時代の諜報活動、リスベットがなぜ後見人の元におかれているのか。前作で繰り出された謎や出来事が一つ一つ解決されていき、リスベット・サランデルという人物にまつわる過去が明らかになる。その陰にはリスベットを取り巻く人たちの献身的な努力があり、そういう人たちの優しさが、凄惨な事件の連続で暗くなるこの作品の癒しとなり、魅力的なものにしているのではないかと思う。

こんなむごい生い立ちは経験したくないけれど、リスベットが大金を手にして、一生お金に困らないで生きて行けるのはうらやましい。

著者はミレニアムシリーズを5作まで構想していたとのこと。あと2作の内容はまさに"神"のみぞ知る。リスベットの妹が登場するのではないかと思う。読みたかった、けれどとりあえずリスベットの人生がひとまず落ち着くのを見届けることができてよかった。

2011-11-16

ミレニアム2 火と戯れる女 [スティーグ・ラーソン著]


「ドラゴン・タトゥーの女」の続編。

前作でスウェーデン経済界の巨悪を、それぞれのやり方で倒したリスベット・サランデルとミカエル・ブルムクヴィスト。この作品では、リスベットの出生の秘密が明かされ、リスベットを亡き者としようとする者たちと彼女との戦いが始まる。一方ミカエルは、雑誌「ミレニアム」で人身売買の記事を掲載しようとしているが、人身売買組織を追ううちに、リスベットを狙う者たちに辿りつく。

「ドラゴン・タトゥーの女」では、怖いもの見たさをくすぐるプロットで読者はぐいぐい引き込まれていったが、この作品はそういうミステリ成分が希薄。ただし、登場人物たちの背後にある隠された過去を知りたい、という欲求がかき立てられる。

「火と戯れる女」は、スウェーデン社会が抱えている暗黒面がテーマのよう。バルト海を挟んで向かい合う隣国との関係がもたらす暗黒面。冷戦時代はソ連、現在は途上国であるバルト三国。北欧ののんびりした福祉国家、と思いきや人権無視の悪に蝕まれているのだ、ということ。

この作品は唐突な終わり方をする。次の「眠れる女と狂卓の騎士」でストーリーは完結。「火と戯れる女」と「眠れる女と狂卓の騎士」で一つの作品と言えると思う。この作品は前編だ。

2011-11-12

食べる音の恐怖 [GOOD FOOD]


Original Title: Misophonia: The Fear of Smacking and Slurping

人がものを食べる時にたてる音が気になるのは、一種の恐怖症である、という話。

オレゴン州のある音声学者は、これまで何百人という人たちをミソフォニア、音恐怖症と診断してきた。音恐怖症の人たちにとって、人がものを食べるときにたてる音、クチャクチャとかペロペロとかの音が耐えられないほどの不快感を与えている。食事中に黒板を爪で引っ掻く音を聞いているようなもの。

音恐怖症は先天的なものではなさそうで、ある日突然スイッチが入ってものすごく気になるようになる。彼らは情緒不安定で精神科的な問題を抱えているわけではない。きわめて普通に育ち、快活で運動も勉強もよくする子どもが、ある日音恐怖症になり、親が発する音がイヤになったりする。

原因は脳にあるのではないかと考えられている。人の耳にはさまざまな音が入って来るが、脳が聞きたい音だけを抽出して必要のない音は聞こえないようにしている。音恐怖症の人たちはこの抽出機能がうまくいってないために、ものを食べる音が聞こえてきてしまう、ということ。

実は私も人がものを食べる音がものすごく気になる。咀嚼する度に口を開けてクチャクチャと音をたてる人の方が下品だと思っていたが、その音が気になる人の方に問題がある、という結論に驚いた。呼吸するたびに音をたてる人も不快だし、口笛は大嫌い。それもこれもミソフォニアだからなのか。